メランコリック(2018)

製作国:日本
監督:田中征爾
脚本:田中征爾
出演:皆川暢二/磯崎義知/吉田芽吹/羽田真/矢田政伸 他
★★★★☆


殺人銭湯でバイトしたら人生が激変した話

本作は一言で言うと上記のタイトルみたいな話です。以下、内容に触れていますので、未見の方は鑑賞後にお読みいただくことをお勧めします。



僕はこれまでいくつかの会社で働いてきましたが、その中には、今思えば結構異常な会社だったよなあとしみじみ思えるところもありました。でも怖ろしいことに、働いている最中はその異常さを感じなくなっているんですよね。はじめは違和感を覚えるようなことでも、社内の他の人間がそれを当然のことのように受け入れているのを見て、さらに自分にもそれを要求されるうちに、どんどん感じなくなる。そしてその状態に慣れてしまう。「人間とはどんなことにもすぐ慣れる動物である」とドストエフスキーは言ったそうですが「ホントそれな」と思います。
だから、本作の主人公・和彦(皆川暢二)がバイト先の銭湯で人が殺される場面を目撃してしまい、それをきっかけとして死体の処理を手伝わされる羽目になったにもかかわらず割とすんなりとその事態を受け止めちゃって、それどころか「死体処理手当」がもらえるので生活に余裕が出てきてしまい、その勢いで恋人まで作ったりするという展開にも違和感は全く感じませんでした。と言うとウソになるけれど、この銭湯は前述の、かつて僕が経験した「結構異常な会社」の異常性を最大限強調したカリカチュアなのだと解釈すれば、何しろ「どんなことにもすぐ慣れる」んだから仕方ないよなあと思える。
つまり、本作はいわゆる「ブラック企業」をめぐる寓話として捉えることができるということです。ヤクザの田中(矢田政伸)からパワハラまじりに殺人のノルマを強制されて、逆らうこともできずに引き受け続ける銭湯のオーナー・東(羽田真)。そして、そのオーナーに泣きつかれて徹夜で殺人から死体処理までという正真正銘のブラック労働を強いられる和彦と、殺し屋の松本(磯崎義知)。これはまさに僕たちがよく知っているブラック企業の構図なわけじゃないですか。
そんな真性ブラックな労働環境を受け入れることをやめて、本作の終盤でついに反逆するために立ち上がる和彦たち。そこからの着地点がとても良い。今まさに「結構異常な会社」で働いている人に是非観てほしいです。