2024年3月の鑑賞記録

ハンテッド 狩られる夜』シネマート新宿 '24・3・11
『落下の解剖学』新宿ピカデリー '24・3・20
『夜明けのすべて』テアトル新宿 '24・3・30

ハンテッド 狩られる夜』の主人公アリス(カミーユ・ロウ)は会社の同僚と不倫中。その夜も、同僚と密会した後、彼の車で夫が待つ家に帰ろうとしていたのだが、給油のためにとあるガソリンスタンドに立ち寄ることになる。アリスは併設された店に入ってみるが、誰もいないので車に戻ろうとした瞬間、彼女の腕をどこからか発射された銃弾が貫通し、落としたスマホも銃撃によって破壊される。さらに彼女を心配して店に入ってきた同僚は射殺されてしまう。
この後、アリスと正体不明のスナイパーとの命賭けの知恵比べが始まるのだが、これが面白い。店がコンビニとホームセンターを合わせたようなつくりになっているので、そこにある様々な商品を使って狙撃から逃れつつ脱出の機会をうかがうというスリリングな展開になる。
さて、スナイパーはいったい何者なのか、否が応でも観客は気になるところだと思うが、全くわからないのだ。アリスは店に置いてあったトランシーバーでスナイパーと会話することで、彼の話をヒントに正体をつかもうとするが、悪意ある言葉をぶつけられるばかりで何の役にも立たない。
僕も観ながらスナイパーの正体について、いろいろ考えた。まずは、実はアリスの夫なのでは?という説。妻の不倫に逆上して、不倫相手は即射殺し、憎い妻は腕だけを撃って生かしておき、さんざん苦しめてから殺そうとしているのではないか。しかし、そうだとすると、その後このガソスタに立ち寄る何人かの無関係な人々も射殺してしまうのはなぜか。警察への通報を防ぐためだとしても、ただの一般人である夫がそんなに簡単に無差別殺人を犯せるものだろうか?
店の中に従業員の女性の死体があったことから、この店の店員では?という説も浮かぶが、それでは、なぜこのガソスタと道路を挟んで向かい側のどこかから狙撃するなどという面倒なことをするのかがわからない。店に隠れていて入ってきた客を撃てばいいじゃないか。それにアリスだけを生かしておく動機もない。
アリスは製薬会社の社員であり、トランシーバーでのスナイパーの発言によると、反ワク陰謀論者らしいので、始めから彼女と不倫相手を狙っていたという説も思いついたが、では、なぜわざわざこのド田舎にあるガソスタを襲撃の舞台に選んだのか、その理由がどうにもわからない。
というわけで、考えられるどの説を選んでも疑問に突き当たり、正体には至れないシナリオになっていて実に巧妙だなと思った。僕はこういう小粒ではあるがピリッと辛い、例えば、最近リバイバル公開された『真夜中の処刑ゲーム』のような、ワン・シチュエーションでいかに面白くするかについて知恵を絞りました!という作品がたまらなく好きだ。もっとこういう作品が国内外で作られてほしい。