冷たい熱帯魚(2010)

製作国:日本
監督:園子温
脚本:園子温高橋ヨシキ
音楽:原田智英
出演:吹越満/でんでん/黒沢あすか 他
初公開年月:2011/1/29
★★★★☆

ムケ過ぎ注意

「皮が剥ける」という言葉は、一般的にはだいたい良い意味合いで使われている。「キミ、一皮剥けたなあ」なんつって部下が上司に褒められたりするのはドラマなんかでよく目にするし、男のシンボルたるあの肉棒だって、いまや剥けてるのが常識というくらいの認識され具合だろう。
しかし、なんでもトゥー・マッチだとろくなことがない、というのもまた常識である。本作に登場する、殺人鬼の村木さんは皮が剥けすぎて「人間性」という皮まですっぽり剥けてしまったという、顔はでんでん、中身はレザーフェイスみたいな、とんでもない男なのである。
しかも、そもそも言葉が話せるのかどうかも不明なレザーフェイスなんかと違って、村木さんは口が上手い。なんとか獲物から金を詐取しようと、ペラペラと美味しいことを喋りまくるのだが、それでも相手が騙されない場合は、さっさと殺ってしまう。最初の殺人シーンでの、村木さんとその妻(黒沢あすか)の死体処理の手際の良さの描写で、この夫婦にとってはもはや殺人は日常茶飯事なのだということがよくわかり、ぞっとさせられる。
この恐るべき村木さんのペースにうっかり乗せられてしまい、気がついたらすっかり共犯扱いされて、死体解体の現場でコーヒーを作らされる羽目に陥る、これまた常軌を逸して気が弱い、社本という哀れな男を吹越満が好演している。「今のうちに逃げればいいのに!」とか「なんで今、警察に通報しないかなあ」などと観ててイライラさせられる一方、こんな状況に放り込まれたら、案外こんなものかもしれないなあとも思わせる絶妙なリアルさを感じさせる演技はさすがだ。
しかしながら、好演と言えば、僕にとっての本作のMVPは誰が何と言おうと黒沢あすかさんである。ゲラゲラ笑いながら血まみれになって死体を解体する黒沢さん、騎乗位でおっぱい振り乱して悶える姿を手下のチンピラに見せつける黒沢さん、村木さんが社本に殺られるやいなや、途端に社本に乗り換えようとしてチ●ポを舐めようとまでする黒沢さん……久しぶりに「女優魂」を見せていただきました。ごちそうさまでした。
それにしても、この作品が実話をベースにしているという事実に最も恐怖を感じるのは、決して僕だけではないだろう。「人間性」という皮は、案外剥けやすいものなのかもしれない。