白石晃士監督作品三本立て

去る9月23日、アップリンクXで観た三作品のレビューを一挙にアップしました。
※11月16日、加筆修正。

ある優しき殺人者の記録(2014)

製作国:日本/韓国
監督:白石晃士
脚本:白石晃士
出演:ヨン・ジェウク/キム・コッピ/葵つかさ 他
初公開年月:2014/09/06
★★★☆☆


暇を持て余した神々の遊び

出版社に勤めるキム・ソヨン(キム・コッピ)が、幼馴染であり、障害者施設を脱走して以来、18人を殺害した連続殺人犯パク・サンジュン(ヨン・ジェウク)から取材に応じるとの連絡を受け、とある廃墟のようなマンションまで呼び出された経緯をカメラに向かって語るところから、本作は始まる(日本人であるカメラマンは、なんと『コワすぎ!』の田代=白石晃士監督!)。
サンジュンによってマンションの一室に誘導され、閉じ込められたソヨンと田代は、サンジュンによる驚くべき告白を聞くことになる。なんと彼が18人(実際には25人!)もの人々を殺したのは、ソヨン同様幼馴染であり、子供の頃に交通事故で亡くなったユンジンという少女を復活させるためだった。しかもその根拠は、そうすれば「神様」が「ユンジンは生き返る」と言ったから!
あー、なるほどサイコスリラーで来ましたかと、この時点で僕は思った。サンジュンは「今からここに二人の日本人が来るから、彼らを殺す。そして犠牲者が合計27人になると奇蹟が起こってユンジンが復活するので、それまでの一部始終をカメラで撮影しろ」と要求する。完全に電波を受信している人の言い分である。
ところが意外や意外、サンジュンたちのいるマンションの一室に、日本人カップル(葵つかさ米村亮太朗)が本当にやってくるのである。彼らを拘束した後、サンジュンは「本当に愛し合っている二人を殺さなければならない」などと謎理論を展開して、彼氏の前で彼女をいたぶり始める。うわー、これは『グロテスク』みたいなトーチャー・ポルノ的展開になるのか、いやだなあ、などと思っていると、このカップルが只者じゃない。特に狂犬のような彼氏は、サンジュンにびびるどころか挑発しまくる。人質に煽られて涙目になる連続殺人犯という、もしかしたら映画史に残るかもしれない名シーンの直後には、超凶暴なカップルの逆襲により、全員参加の殺し合いに発展! カオス!
そして終盤には、なんと、どう見ても邪神にしか見えない「神様」がマジに出現。そして急転直下、正真正銘の感動のラストを迎えるのであった……。
いや、しかし、こんなに観てる間に展開が読めず、翻弄された映画は初めてかもしれない。まさにジャンル分け不能としか言いようがない異形の作品である。
それにしても、あのラストには本当に驚いた。まさに絶対に予想不可能。特にこれまでの白石作品を観てきたファンの中には、もしかしたら受け入れられないという感想を持つ人もいるかもしれない。
しかし、例えばこんな風には考えられないだろうか。サンジュンは神々が仕組んだゲームの駒に過ぎず、あのラストにたどり着けるか否かを賭けの対象にされていたのだと。
つまり暇を持て余した神々の遊び」に巻き込まれた人間たちの悲喜劇だと考えれば、本作もまた、『ノロイ』『オカルト』『カルト』そして『コワすぎ!』シリーズに連なる“暗黒神サーガ(仮)”の一本だと解釈できる。少なくとも僕はそのように、この作品を自分の中で位置づけた。

超・暴力人間(2010)

製作国:日本
監督:白石晃士
脚本:白石晃士
撮影:白石晃士
出演:宇野祥平那須千里/白石晃士 他
★★★☆☆


処分(しょぶ)っていいとも!

ある雑誌の付録のDVDに収録されるはずが、あまりにも問題ありすぎのために取りやめとなったいわく付きの映像、という体(てい)の作品。インタビュアーの那須那須千里)とカメラマン(白石晃士)は、職業としてヒーロー活動をしている「暴力人間」を自称する男(宇野祥平)に取材を試みるのだが、なぜか山の中で死体を埋めようとしていた男たちの「処分(殺人)」を撮影させられる羽目になる。
突然、「暴力人間」に襲われて動揺する男たちとは対照的に、人殺しをしようとしているにもかかわらず心底うれしそうな宇野祥平のタガのハズレっぷりが素晴らしい。
この作品でも、やはり取材対象から取材者に暴力性が伝染する、という白石監督がこだわり続けているテーマが描かれており、「暴力人間」が凶器として使ったスコップを手にした途端に那須が凶暴化。彼女にボコボコにされて、すっかり弱腰になる「暴力人間」の変貌ぶりが笑える。
「おめが」「処分る(しょぶる)」など日常生活でも是非使っていきたいフレーズが頻出する、下品で悪趣味だけど気分がスカッとする快作。

殺人ワークショップ(2014)

製作国:日本
監督:白石晃士
脚本:白石晃士
撮影:岩永洋
出演:宇野祥平/木内彬子/西村美恵 他
初公開年月:2014/09/13
★★★★☆


殺っていいとも!

僕は自他共に認める温厚極まりない人間であって、職場の人たちからは「仏の××さん」「いつも優しい仏様のような××さん」「いっそのこと早くホトケになればいい××さん」などと陰では言われているようだが、そんな僕でも殺したい奴は数人いる。
しかし、どんな人間のクズでも殺してしまえば、わが国では人生ほぼ終了である。それはイヤだから我慢しているのだ。僕に限らず、そういう人は少なくないと思う。
この映画は、僕も含めたそういう人々に「(フィクションの中なら)殺人OK!」と、せめてもの慰めを与えてくれる作品である。
とはいうものの「殺人による自己解放」という、現代日本の価値観では絶対に肯定できない題材を、正面からリアルに描いており、まさに演劇のワークショップ(ENBUゼミナール)でしか制作しえない問題作でもある。
この作品にも、暴力の象徴としてのスコップが登場し、宇野祥平扮する「殺人ワークショップ」主宰の謎の男に、ヒロインがそのスコップを武器に対峙して、乗り越え、そしてラストのシークエンスへと至る……という流れとなっているので、なるほど、それで『超・暴力人間』との二本立て上映なのか、と腑に落ちた。
自分の中の「殺意」を自覚している人にも、そうでない人にも是非観てほしい。