ヘドローバ(2017)

製作国:日本
監督:小林勇貴
脚本:小林勇貴
出演:木ノ本嶺浩/ウメモトジンギ/一ノ瀬ワタル/洪潤梨/竜のり子 他
★★★★☆


「悪魔の毒々団地BBA」に秘められた悪意

2017年12月13日、アップリンク渋谷にて鑑賞。
VICE PLUSの〈ケータイで撮る〉映画シリーズ第1弾として作られたこの作品、全編スマートフォンで撮られているんですが、通常の映画撮影用のカメラで撮られた作品と全然遜色がないように素人目には思える。これなら貧乏な若者もどんどん映画が撮れるわけで、全く良い時代になったもんです。
で、肝心の内容なんですが、インチキ新興宗教の教祖のババアと極悪ヤンキー兄弟という面子の因果な一家が宗教とクスリと暴力で支配している地獄みたいな団地に、突然意味なくモンスターが出現し、結果的に登場人物がほとんど全員死ぬという、一言で表現すると「悪魔の毒々団地BBA」的なお話でスカッとして大変面白かったです、と夏休みの読書感想文みたいな〆方ができるようなそんな単純な話でもないんですよ。
物語の表層だけ見れば、確かに「悪魔の毒々団地BBA」であって、例えばiphoneに脳の中身を転送したマッドサイエンティストが登場して、3Dプリンタでモンスターを殺すための武器を製造したりする。そういうモンスター映画にありがちな要素もちゃんと入れ込みつつ、でも全体として「悪魔の毒々団地BBA」として笑えるだけの映画には絶対にしないぞと、そんなに簡単に楽しませねえぞという観客に対する悪意をビシビシ感じるんですよ。
例えば、ヤンキー兄弟・兄(ウメモトジンギ)が身体障碍者の女の子をレイプするとか、家出してきた歯医者の家のガキにヤンキー兄弟・弟(一ノ瀬ワタル)が首輪つけて虐待するとか、もう隙あらば観客の倫理観をグラグラ揺さぶるようなシーンをぶち込んでくる。全然「悪魔の毒々団地BBA」であるところの本筋を楽しませてくれないわけです。事実上のクライマックスが歯医者の家に押し入っての強盗・強姦・殺人のフルコースですからね。しかも一切笑えないガチなシークエンスに仕上げていて嫌がらせかと思いました。
何故、小林監督はこんな風に『ヘドローバ』という作品を作ったのか。それを理解する鍵は、問題の歯医者の家のシークエンスで、ガキの口から発せられたセリフにあるように思います。
「金持ちだから余裕がある。余裕があるとすぐ怠けだす。だから自分の危機にも気付かねえ。もう親とは思わねえ。」
たぶん小林監督がこの作品に秘めた悪意の底には怒りがあるんじゃないですかね。「気付かない」連中への怒りが。この作品に登場する団地の住人のような貧困層が現に存在していても「気付かない」。近所の不良が暴力に明け暮れて命のやり取りをするような殺伐とした日々を送っていても「気付かない」。宗教にすがるしかないような孤独な老人の群れがすぐそばにいて日々増殖しているのに「気付かない」。「気付かない」こと自体に「気付かない」ような、そんな連中への怒りが。それが本作を、易々と「悪魔の毒々団地BBA」として消費させない作品にしていると思いました。