サタンタンゴ (1994)

製作国:ハンガリー/ドイツ/スイス
監督:タル・ベーラ
原作:クラスナホルカイ・ラースロー
脚本:クラスナホルカイ・ラースロー/タル・ベーラ
音楽:ヴィーグ・ミハーイ
出演:ヴィーグ・ミハーイ/ホルヴァート・プチ/デルジ・ヤーノシュ/セーケイ・B・ミクローシュ/ボーク・エリカ/ペーター・ベルリング 他
★★★★☆


大人計画」イン・ハンガリアン限界集落

以前から、とにかく劇中で殺人がアホほど多発する映画が観たいというニュアンスのうわ言を垂れ流している僕のような低能は完全にお呼びでない感じのこの作品を観に行った動機なんですが、7時間18分という常識外れの上映時間に果たして自分が耐えられるのかどうかを確かめたかったという一点に尽きます。「富士山の頂上に登ってみる」とか「激辛カレーを食べてみる」とかと同じノリ。だから最悪の場合、1ミリも理解できない難解な内容にもだえ苦しむ結果に終わったとしても、それはそれで仕方がないと覚悟して鑑賞に臨みました。
ところが、やっぱり映画というのは実際に観てみないとわからないもので、端的に言うと面白かった。
まず映画の前半では、恐らく十数人しか住んでいない、完全に「終わった」感じのハンガリーのとある寒村を舞台に、誰かれ構わず不倫してしまう人妻、村人全員で稼いだ金を持ち逃げする計画を立てる男、異常に性格が悪い村の酒場の店主、村人を観察し続けるアル中の医者、親にネグレクトされて猫を虐待する少女…といろんな意味でダメな人間ばかりが登場して、お互いに憎み合ったり軽蔑し合ったりするという、非常に人間味あふれるドラマが展開するので、一時期ハマった「大人計画」を連想させられました。もちろん「大人計画」の諸作品ほどにハッキリとしたコメディの要素はないんですが、もしかするとこれは観客を笑わそうとしているのでは?と思える部分もいくつかある。例えば酒場で村人たちが踊り狂う場面があるんですけど、上記の不倫している奥さんの旦那が泥酔して「ひたすらおでこにパン(?)を載せながら真顔で歩き回るという渾身のギャグを披露しているのに全員に無視される」というくだりがあり、これは絶対「狙った」に違いないと思っています。
後半では、死んだはずの男が村に帰ってきたことをきっかけとして、村人たちが思いもよらない過酷な運命を辿っていく様が描かれるんですが、これがまたどいつもこいつもマヌケとしか言いようがなく、全く誰にも同情できなくて、大変にすがすがしい。この冷酷とも言える突き放し方にも「大人計画」風味を感じました。
で、7時間18分の上映時間に対して約150カットというカット数のため、全編を通して、人間の醜さ・愚かさを超長回しでたっぷりと凝視させられることになったわけですが、これが何をもたらしたかというと、僕の場合、逆に「神話」の世界を覗き見ているような気分にさせられたのが不思議です。愚かな神々が酔っぱらったり、セックスしたり、ひたすら欲望に駆られて右往左往したりするだけの下世話な、しかし普遍的な「神話」を。