マンディ 地獄のロード・ウォリアー(2017)

製作国:ベルギー
監督:パノス・コスマトス
原案:パノス・コスマトス
脚本:パノス・コスマトス
音楽:ヨハン・ヨハンソン
出演:ニコラス・ケイジアンドレア・ライズブロー/ライナス・ローチ/ビル・デューク 他
★★★★☆


舐めてた相手がニコケイだったパターン

※ストーリーに触れていますので、鑑賞後にお読みいただくことをお勧めします。


この作品、基本はリベンジ・ムービーであると共に「舐めてた相手が実は殺人マシンでした映画」((c)ギンティ小林)でもあると思うんですが、別に主人公のニコラス・ケイジ(以下ニコケイ)は元CIAの殺し屋でもなければ元特殊部隊のエリート隊員でもない。そういうバックボーンは全く説明されないので、見たまんまで言えば、ただの木こりです。
彼は、奥さんのマンディ(アンドレア・ライズブロー)と山の中の一軒家で、二人で仲睦まじく暮らしているんですが、ある日、彼女が何気なく道を歩いていると一台のバンが通りかかる。乗っていたのはマンソンファミリーみたいないかれたカルト教団で、その教祖(ライナス・ローチ)は車内からマンディさんを見て一目惚れ。さっそく教団内のナンバー2らしきおっさんに彼女を連れてこいと命令します。
おっさんは夜中にどこかの原っぱに出かけて行き、「何とかの笛」とかいう中二病っぽい名前の付いたオカリナをペ〜ッ、ポ〜ッと吹く。すると全員が『ヘルレイザー』に登場する魔道士みたいな風体のヤク中暴走族が闇の中から出現し、教団お手製の超強力ドラッグと引き換えにマンディさん誘拐への協力を承諾。彼らはニコケイの家を急襲してマンディさんを連れ去ります。
教祖は、マンディさんにヤクを使って言うことをきかせようとしますが、逆にガンギマリしたマンディさんに自作のレコードのダサさを嘲笑されて逆ギレ。彼女はニコケイの目の前で教団一味によって惨殺されてしまいます。
木に縛り付けられ、やはり中二病っぽい名前の短剣で脇腹をズブッと刺されて放置されたニコケイは何とか縛めを解き、自宅にある、壁が一面LSD模様の不穏なバスルームで、上はTシャツ、下はブリーフ一丁という姿でジンをラッパ飲みしながら痛がったり泣いたり叫んだりした挙げ句、復讐を決意。やおら武器の自作に取り掛かります。
そして出来上がったのは『ロード・オブ・ザ・リング』とかに出てきそうなデザイン性偏重・実用性皆無といった感じのバカでかい斧。これとボウガンを携えて、まずは暴走族を襲うんですが、あっさり返り討ちに遭って連中のアジトに拉致られてしまう。しかし隙を突いて逆襲に成功。ついでにアジトにあった山盛りのコカインや例の超強力ドラッグを摂取し、暴走族を壊滅させます。
しかし肝心のカルト教団が今どこにいるのかはわからない。どうするのかニコケイ。アジトを後にして、あてもなくバイクを走らせていると道端に見るからに怪しい建物を発見。おもむろに建物に入っていくニコケイ。中にいたのはLSDをはじめ非合法な薬物をもろもろ製造中とおぼしき化学者風のおっさんとペットの虎。おっさんとニコケイはテレパシーで会話を交わし、おっさんはカルト教団の情報をあっさり提供。ニコケイは復讐を果たすべく(ラリったまま)教団の居場所に向かう…。
…という、監督自身も非合法な薬物を使用しつつ書いたんじゃないかと邪推してしまうような、ツッコミ所満載のお話なんですが、これ、もしも主人公がニコケイ以外の俳優だったら、普通の木こりである主人公が、いくら愛する妻を殺された怒りに駆られたからといって、突如として殺人マシンに変貌できたのは何故か?ということに、やはり引っかかりを覚えたと思うんです。しかし、僕はそこはまるで気にならなかった。もちろん他に気になるところが山ほどあったからでもありますが、ニコケイは「何の特別なスキルもなく、普段はボーッとしているが、怒ると(ドラッグの力も借りつつ)悪人を皆殺しにできる男」を演じて全然違和感を感じさせない稀有な俳優なんだということを思い知らされました。「あれだけ怒ってる(&ラリってる)んだから、あれくらいしても仕方がないよね」と納得させる力を持っている。ストーリーの異常さに拮抗する狂気を発散していて、率直に言って凄い。俳優引退を宣言したらしいですが、もったいなさすぎるので是非続けてほしいです。