ゴーン・ガール(2014)

製作国:アメリ
監督:デヴィッド・フィンチャー
脚本:ギリアン・フリン
音楽:トレント・レズナーアッティカス・ロス
出演:ベン・アフレックロザムンド・パイクニール・パトリック・ハリス 他
初公開年月:2014/12/12
★★★★☆


あなたの隣の「怪物」かもしれない女

デヴィッド・フィンチャーの監督第二作『セブン』(1995)は、「ジョン・ドゥ」という極めて個性的なサイコキラーを創造したことにより、少なくともミステリー映画史に残るだろうと僕は思っている。しかし本作が観客にもたらす恐怖は『セブン』のそれを上回る。
なぜなら、逆説的だが、本作に登場するエイミー(ロザムンド・パイク)は、決して「ジョン・ドゥ」のような前代未聞の狂人ではないからである。当初、彼女は非常に知的ではあるが、ごく普通の女性にすぎなかった。そしてベン・アフレック演じるニックと理想的な結婚をしたものの、その後の彼の「裏切り」(彼女が満足できる生活を提供してくれなかったことや若い愛人との浮気など)に対する不満によって、じわじわと精神にどす黒い澱を沈殿させていった結果として「怪物」に変貌した女なのだ。つまり、男に裏切られた全ての女性が彼女のようになり得るという深刻な恐怖を観客に突きつける存在なのである。
もちろん、エイミーがあのような一連の犯行をするに至った背景には、「アメイジング・エイミー(完璧なエイミー)」という童話のモデルとして、自らもまた常に完璧な少女であることを要求され続けてきた過去の影響(彼女の「理想的な夫との生活」への病的な執着心はここに端を発しているのではないかと思われる)も間違いなくあるのだろうが、賢明なフィンチャーはそれについては、あえて言及しない。それは、もちろん上記のようにエイミーが普遍的な存在だと観客に示すためだ。そう、彼女はどこにでも現れる。例えば、あなたの隣で眠っている女が、いつの日か「エイミー」にならないという保証はどこにもないのである。