アウトロー(2012)

製作国:アメリ
監督:クリストファー・マッカリー
脚本:クリストファー・マッカリー
音楽:ジョー・クレイマー
出演:トム・クルーズロザムンド・パイクリチャード・ジェンキンス 他
初公開年月:2013/02/01
★★☆☆☆


俺は無職の渡り鳥

拙ブログ内の「極私的名画劇場」にて、本作の監督であるクリストファー・マッカリーの監督デビュー作『誘拐犯』を取り上げている手前、2作目も観に行かない訳にはいかんでしょう! と妙な義務感に駆られて鑑賞。
印象としては、これまでに観たトム・クルーズ主演作の中では一番地味な作品。しかしながら『誘拐犯』においてあれだけ好き勝手なことをし倒したクリストファー・マッカリーをもってしても、結局、トム流「俺イズム」を抑制することは不可能だったようで、「今までとは違う、こういう俺もどう?」というトムのドヤ顔が全編にチラついて、うっとうしいことこの上ない。
彼が演じるジャック・リーチャーは、かつて陸軍の捜査官だったが、退役後は定職に就かず、家も持たず、家族も友人も作らず、携帯電話もクレジットカードも持たずに流浪の生活を送っている男。まるで一昔前の日活の『渡り鳥』シリーズの主人公を思わせる、良く言えばクラシックな(悪く言えば時代錯誤な)設定の人物である。
この現代において、そういう生き方を選んだからには、それ相応の過去があってしかるべきだけれど、その辺の事情には一切言及せず、ジャックは、ただ単に何にも縛られない自由な人物として描写されている。このことが(恐らく演出の意図とは真逆に)彼の存在感を奇妙に薄いものにしてしまっている上、「アウトロー」としての凄みを出すことを妨げてしまっているように思う。要するに、このようなハードボイルド・タッチのアクション映画の主人公としては決定的に「軽い」のである。その「軽さ」を「俺様の新しい側面!」とか思っているんだとしたら、トム・クルーズの自己プロデュース能力にもいよいよ陰りが見えてきたのだと考えた方がいい。
象徴的なのが、弁護士ヘレン(ロザムンド・パイク)の事務所で向かいのビルで働く人々を見ながら「自由に生きてる俺かっこいいアピール」するシーン。いやいや、あんた、要するに無職でホームレスだろう。誰も憧れねーっての。これ、本気でかっこいいと思ってやっているんだとしたら、トムさん、いよいよヤキが回ったとしか思えない。
それでも、腐ってもクリストファー・マッカリーだ。きっとクライマックスの銃撃戦ではなんかやらかしてくれるに違いない、と期待していたのだが……ロバート・デュヴァルの活躍は粋だったものの、他に特筆するようなことは何もない、極めて淡白な感じに終始しており、本当にがっかりした。
以下は余談だが、敵の黒幕をヴェルナー・ヘルツォークが演じていて(特殊メイクの効果を差し引いても)異様な迫力があり、本作の中で一番輝いている。それにしても何故、こんな映画に出たんだろう?