マッドマックス 怒りのデス・ロード(2015)

製作国:オーストラリア
監督:ジョージ・ミラー
脚本:ジョージ・ミラー/ブレンダン・マッカーシー/ニコ・ラソウリス
音楽:ジャンキー・XL
出演:トム・ハーディシャーリーズ・セロンニコラス・ホルトヒュー・キース=バーン 他
初公開年月:2015/06/20
★★★★★


犬死上等

唐突だが、「マッドマックス」シリーズと「狂気」についての私見を述べるならば、タイトルに反して主人公・マックス(第1作〜第3作:メル・ギブソン/本作:トム・ハーディ)は、かつて一度たりとも「MAD」であったことはなく、本作でも、彼は決して狂ってはいない。狂った状況下では理性的な行動をとる人間が「MAD」と呼ばれることになる。そういう意味において、彼は「MAD MAX」なのである。
ちなみに本作は前三作以上に狂った世界を舞台にしているが、主要な登場人物は誰も狂ってはいない。フュリオサ(シャーリーズ・セロン)も、イモータン・ジョー(ヒュー・キース=バーン)の妻たちも狂気に侵されてはいない。イモータン・ジョーを命がけで崇拝し、命令に絶対服従する「ウォー・ボーイ」として育てられたニュークス(ニコラス・ホルト)でさえ、フュリオサの操る「ウォー・タンク」に乗り込んで以降、夢から覚めたように「正気」になる。
狂気はすべてイモータン・ジョーの側にある。とりわけ英雄的な死を希求するウォー・ボーイたちの心のうちに。悲しい話だ。痛ましい設定である。しかし、それでもウォー・ボーイの生き方に惹かれる部分が僕の中にはある。
V8エンジンを崇め奉るイカれた宗教の下、独裁者イモータン・ジョーのために死ぬことこそが天国に至る道だと洗脳された哀れな連中のどこに感情移入する余地がある? なるほどごもっとも。それでも砂嵐に突入する直前「What a lovely day!」と叫ぶニュークスのあの表情を見てしまうと、あんなツラして死ねるなら、ウォー・ボーイとしての人生も悪くなかったのではないかと思ってしまう自分がいるのである。犬死、上等じゃないか。