僕は人を殺しました(2011)

製作国:日本
監督:坂井田俊
出演:川瀬陽太/青木伸仁/齋藤芳廣/千葉美紅/遠山貴弘
初公開年月:2012/05/19
★★★★☆


坂井田俊の幸運

何が映っているのかが見定められないほどに暗い。
いくら夜だからといっても、今時こんなに暗いところがあるのかと思うような、郊外の草むららしき場所から、この映画は始まる。
どんな映画なのかと問われれば、顔も名前も明らかにされない、フードをかぶった男とキャップをかぶった男と白いシャツの男が、殺したり殺されたり殺させたりする話、としか答えようがない。動機も背景も一切説明されないし、台詞さえ無いに等しいのだから。
しかし、ひとつだけ、はっきり理解できることはある。
それは、この映画が「殺人」という行為に恐ろしいまでに執着し、考えている人間が作ったものだということである。
だからといって殺人を賛美しているのではない。
観終わったあとに残るのは、人を殺すということのもたらす虚しさだけである。


この作品を観て、僕は、かつて「酒鬼薔薇聖斗」と名乗って人を殺した少年の、あるエピソードを思い出した。
彼が小学六年生のとき、色を塗った粘土の塊にカッターナイフの刃を突き立てた作品を作ったことがあったという。それを見て、彼の周囲の人々は彼を心配したり恐れたりしたのだろうと推測するが、もしも「なかなか面白いものを作るじゃないか。もっと気持ちワルいもん作って見せてくれよ」などという反応をした人間がひとりでもいたら、そして「芸術」と出会っていたなら、その後の彼の運命はかなり違っていたのではないかと思うのである。
ところで坂井田俊は映画と出会った。これは彼にとっても我々にとっても幸運なことだったに違いない。