ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(2019)

製作国:アメリ
監督:クエンティン・タランティーノ
脚本:クエンティン・タランティーノ
出演:レオナルド・ディカプリオブラッド・ピットマーゴット・ロビーアル・パチーノカート・ラッセル 他
★★☆☆☆


あえて言うなら「やおい映画」

この映画にブルース・リーシャロン・テートが登場するという記事を、公開前にネットで目にした時、これはブルース・リーチャールズ・マンソンをボコボコにする痛快大活劇に違いないと勝手に期待したんですが、いざ観てみたら見事にスカされてがっかりしました。その上に唖然とした。何しろストーリーがないんですから。落ち目の俳優であるリック・ダルトンレオナルド・ディカプリオ)と彼の専属スタントマンのクリフ・ブース(ブラッド・ピット)の何ともダルい日常の描写の合間に、シャロン・テートマーゴット・ロビー)のキラキラしてはいるけど、やはりどうということのない日常が描かれるだけ。ラストの十数分までは、本当にただそれだけの映画なんですよね。
だから大部分は退屈ではあったんですが、だからといって「つまんねえ!」と一言で切って捨てられるような作品でもないような気がして、いったいこの映画は何なんだろうと考え続けるうちに、不意に「やおい」という懐かしい言葉が脳内に浮上してきたんですよ。
やおい」とは何か? まあ今でいうBL系の二次創作作品の俗称といったところです。漫画やアニメの登場人物である男性カップルがいろんな部位をいろんな部位に入れたり出したりする描写に重心を置きすぎた結果、起承転結もクソもない作品になってしまった様を指して「やまなし・おちなし・いみなし」とどこかの誰かが自虐的に言ったのが語源らしいんですが、本作はまさにコレという感じがする。
「いや、そもそもこの映画は先行作品の二次創作じゃないし同性愛要素もないじゃないか」と思われる方も勿論いるでしょうが、本作はタランティーノによる“「シャロン・テート殺害事件」の二次創作”という試みなのではないかと僕は言いたい。いや、“「1969年のハリウッド」という時空間そのものの二次創作”はたまた“『ハリウッド・バビロン』の二次創作”とでもいうべきか。
端的に言うと、ここで描かれているのはタランティーノの妄想の中の「もう一つのハリウッド」であって、そこではシャロン・テートは殺されず、そのまま平和な日常が続いていく。そういう「もう一つのハリウッド」をものすごくリアルに構築した「だけ」で終わっている作品なのだと思うんですね。そういう訳で「やまなし・おちなし・いみなし」即ち「やおい」という言葉が連想されたのかなと。
だから、この「もう一つのハリウッド」にタランティーノのごとく浸って酔うことができたなら良い映画だったと言えるんでしょうが、そうでなければイマイチという評価を下さずを得ず、僕はまあ正直言って後者でした。
ところで「やおい」などと言い出した勢いで言いますが、この作品、同性愛要素も実はあるんじゃないかとも思える。と言うのもリックとクリフの二人がどうしてあんなに仲がいいのか、映画の中では全然その理由が語られないんですけど、恋愛関係ということならすんなりと腑に落ちるので。