ビューティフル・ニュー・ベイエリア・プロジェクト(2013)

製作国:日本
監督:黒沢清
脚本:黒沢清
音楽:長嶌寛幸
出演:三田真央/柄本佑/森下じんせい 他
初公開年月:2013/07/06
★★★★☆


黒沢清流「香港映画」誕生!

『神奈川〜』と同じく、ユーロスペースでレイトショー上映されていた、「GEIDAIFILM 2013」の一篇。何故、プロの映画監督である黒沢清の作品がこのプログラムに入っているのかというと、藝大映画専攻7期の技術スタッフ(撮影照明、美術、録音、編集)の修了作品でもあるためだからだそうである。さらに本作は、上映が始まるといきなり香港の映画会社(?)のロゴが出てきたので驚いたのだが、実は香港映画祭の注文によって作られた作品でもあるのだという。
かくもいろいろややこしい出自の本作だが、内容はこれ以上ないくらい明快なアクション映画、というか黒沢清独自の解釈による「香港映画」だと断定してしまいたい。
物語は、とある埠頭に、その埠頭も含むベイエリアの再開発を請け負った会社の若社長・天野(柄本佑)が視察に訪れたところから始まる。彼は、そこで働く高子(三田真央)という美女に目を留め、すっかりその魅力の虜になってしまう。以来、ストーカーのごとく高子に迫り続ける天野だが、高子は全く相手にしない。名前も教えてくれない高子に業を煮やした天野は、彼女の名札を奪って逃走する。高子は名札を取り返すべく、天野の会社に殴り込みをかける……。
この展開に「んあ?」と違和感を持った人、極めて正常だと思います。だって名札だよ、名札。それも別に父の形見だとか何とか謂れのあるものでもない。工事現場にその日入っている人がわかるようにボードに引っ掛けておくような、ペラペラのプラスチックの、なんてことない単なる名札です。しかし、何故か高子は是が非でもそれを取り返したいし、天野は何が何でも返したくない。こうして天野の会社の(何故か極度に暴力的な)警備員たちと高子とのバトルが勃発する。
この不自然というべきか、いい加減というべきか形容する言葉に迷うような展開にこそ、黒沢清の「香港映画」解釈が表れているのだと僕は思います。要するに「アクションを起動させる動機は何でも構わない。なぜならアクションを見せることこそが主題なのだから」と彼は考えている。それは例えば「師匠の仇討ち」でもいいし「犯人の逮捕」でもいいし「名札の奪還」でもいいという訳です。
しかし、さらに驚かされるのは、高子を演じる三田真央が恐ろしく高度な格闘テクニックを持っているということ。まさか『エージェント・マロリー』のジーナ・カラーノばりのアクションをこなせる日本人女優が存在するとは思わなかった。特に黒服の男とのタイマンシーンは「ちょっとコレいいのか?」と心配になるほどのガチな蹴り技、関節技の応酬で素晴らしすぎる。日本のアクション女優のニュー・スター誕生ですよ! と叫びたくなりました。
それにしても、『リアル〜完全なる首長竜の日〜』では、恐らく自作史上最多のCGシークエンスを盛り込み、本作では初となる本格的アクションに取り組んだ黒沢監督。これは、ついにハリウッドに本格的に進出する布石なのでは? と妄想は膨らむばかりですわ。