クリーピー 偽りの隣人(2016)

製作国:日本
監督:黒沢清
脚本:黒沢清池田千尋
音楽:羽深由理
出演:西島秀俊竹内結子東出昌大香川照之 他
★★★☆☆


他人のことが全然わからない男VS他人のことがわかりすぎる男

刃物を手にして人質をとった連続殺人犯を前にして、「君のことなら僕はよくわかってるから」と自信満々に出て行き、要求されるがままに背中を向けて、あっさりズブッと刺されるという間抜けすぎる冒頭のエピソードが示しているように、本作の西島秀俊は「犯罪心理の専門家」を自認しているものの、実は他人のことなど全くわかっちゃいない男なのであった。「刑事には向いていない」という台詞があったが、まさにそのとおり。
そんな男が、どういう運命の悪戯か、他人の心の隙間に入り込んで、寄生することで生きている男・香川照之の隣の家に妻である竹内結子と共に引っ越してしまったことから、陰惨でありながら、どこか滑稽なドラマが始まる。
西島秀俊は、何しろ他人のことが自分には理解できると思い込んでいるので、かつて香川照之の犠牲になった一家の生き残りだが何も覚えておらず、さっぱり頼りにならない川口春奈に当時のことを思い出すように強引に迫り続けた挙句、「人間じゃない」とまで言われてしまう。原作は読んでいないからわからないが、少なくともこの映画の本筋には全然絡まない川口春奈をめぐるパートは、西島秀俊もたいがい異常な人間だと観客に示すために、あえて残されたのだとしか思えない。
他人のことがわかると思い込んでいる西島は、実は全然理解できておらず、他人をコントロールすることなどできないが、自分だけはコントロールできる。
他人のことがわかりすぎる香川は、その能力を利用して、他人をコントロールして生き延びてきたのだが、自分だけはコントロールできない。
この相反する異常者二人が出会い、対決したというのがこの映画の語るところである。それをもっとわかりやすく打ち出してくれたら、もう少しとっつきやすい映画になっただろう。本作は、いわゆる「サイコ・サスペンス」を期待して観に来た人にはハードルが高すぎる。