神奈川芸術大学映像学科研究室(2013)

製作国:日本
監督:坂下雄一郎
脚本:坂下雄一郎
音楽:今村左悶
出演:飯田芳/笠原千尋前野朋哉 他
初公開年月:2013/07/06
★★★☆☆


ブラック大学に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない

ユーロスペースでレイトショー上映されていた、東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻 第7期生修了作品展「GEIDAIFILM 2013」の一篇。
主人公は「神奈川芸術大学映像学科」で助手として働く奥田(飯田芳)。わがままな教授連の世話と、アホなことばかりしでかす学生たちの尻拭いに追われる日々に、彼はすっかり嫌気がさしている。そんな中、学生による映像機材の盗難未遂という前代未聞の不祥事が発生し、奥田は、教授たちと学生との間でさらに振り回される羽目になる。
大学というと「ホワイト」な労働環境なのかな、という印象を何となく持っている人も多いだろうが、そんな幻想は――もしも本作がかなり忠実に現状を反映しているとすれば、という前提付きだが――この作品によってたちまち粉砕される。予算獲得のために何としても不祥事を隠蔽したい教授たちに命じられるまま、隠蔽工作に加担した奥田が、犯行に加わった気の弱い学生の自殺未遂や、大学内にいつの間にか広まってしまった事件の噂など、次々に発生する想定外の事態の度に変わる教授たちの対応のために、あたふたと報告書を作り直させられる姿は、まるでブラック会社の中間管理職と変わらない。ちなみに奥田が報告書を提出する、大学の総務課だか庶務課だかのオヤジが、ホントに憎たらしい小役人風味の奴で、こいつの存在が奥田を取り巻く状況のブラック度合いをますます底上げしている。
そんなこんなで、すっかりやっていられなくなった奥田は、ある日ついにキレてしまうのだが、僕が心底恐ろしいと思ったのは、ここからラストまでの展開である。
すっかりクビを覚悟して、研究室に顔を出した奥田を教授たちは何事もなかったかのように迎え、いつも通りに仕事を与える。奥田が「責任をとって辞める」と切り出してもナシのつぶてだ。納得できないままに席に着いた奥田が、ふと気づくと、またもや何かしでかしてしまったらしい学生がすまなさそうに立っている。思わず苦笑する奥田。
――ここで語られているのは、人間的にはどうしようもない教授たちだが、青臭いキレ方をした奥田を許す度量は持っていたということか? 違う。彼らは単に面倒だから、何事もなかったことにしただけだ。何も許されていないし、何も変わらなかったし、これからも何も変わらない。変わらないことだけを彼らは望んでいる。
それが民間企業であれ、大学であれ、「ブラック」な組織とは、こういう狡猾さを年の数だけ身に付けた人間たちが支配する組織のことなのだ。奥田の最後の苦笑はそのことに気づいたがゆえのものなのだ、と僕は解釈している。