リアル〜完全なる首長竜の日〜(2013)

製作国:日本
監督:黒沢清
脚本:黒沢清田中幸子
音楽:羽岡佳
出演:佐藤健綾瀬はるか中谷美紀オダギリジョー 他
初公開年月:2013/06/01
★★☆☆☆


これは夢だと言ってくれ

この、ろくでもない現実世界では、およそ何が起こっても不思議ではない。
「9・11」、「3・11」を経た現在、「想定外」なんてノンキなことを口走るやつは、自分は過去から学習する能力がありませんとカミングアウトするようなものである。
しかし、今回の事態は、僕にとってはまさに「想定外」だったことは正直に告白しなければならない。
まさか、黒沢清の作品で退屈することになるなんて夢にも思わなかったのである。
幽霊が出る。
廃墟でドラマが展開する。
相変わらず、走っていないクルマの中での運転シーンもある。
ごくごく表面的に観れば、いつもの「黒沢映画」である。
しかし、何かが決定的に違う。
何が違うのかを明確に言語化できない自分に苛立つしかないのだが、それでも無理やり言葉にしてみるならば、『「不穏さ」の欠如』ということになる。
これまでの黒沢清の作品には、常に「次に何が起こっても不思議ではない」という不穏な空気が漂っていた。例えば、浅野忠信が上司とその妻をさしたる理由もなく殺害し(『アカルイミライ』(2002))、役所広司が原因は不明のまま、ふたりに分裂し(『ドッペルゲンガー』(2002))、中谷美紀がゲロの代わりにドロを吐きまくる(『LOFT』(2005))。現実世界で生起する出来事と同様に、それらは「ただ、起こる」。僕は、その「不穏さ」こそを愛してきたのだ。
この作品には、それがない。それこそ「次に何が起こっても不思議ではない」設定の世界が舞台なのに、だ。まったく皮肉な話である。
得意の妄想力を最大限に発揮して、この作品を擁護するならば、綾瀬はるか、あるいは佐藤健を目当てに来たお客向けにハードルを下げられるだけ下げた結果、こういう出来になりました、ということじゃなかろうか。そうだと思いたい。そうであってくれ。
次回作、期待してます。

※少々手直ししました(6月22日)