ヒミズ(2011)

製作国:日本
監督:園子温
原作:古谷実
脚本:園子温
音楽:原田智英
出演:染谷将太二階堂ふみ/渡辺哲/でんでん 他
初公開年月:2012/1/14
★★★☆☆


これは「良い失敗作」である

※以下、本文中にて原作および映画のネタバレ全開ですので、注意。


この映画の原作である古谷実のマンガは、その若さのために自意識に縛られて、さんざん空回りした挙句に自滅していく少年を、ただ淡々と見つめ続ける「諦念」に満ちた物語である。
ニュースサイト「CINRA.NET」に掲載されたインタビューによれば、映画『ヒミズ』は、制作準備段階では原作にほぼ忠実な内容だったようだ。しかし、東日本大震災が起こったことにより、脚本は大きく変更され、舞台は震災後の日本に設定された。
その結果、映画『ヒミズ』は、原作のストーリーを震災後という設定で展開するために、もろもろ改変が施されたが、結局うまく噛み合わない奇妙な作品になってしまったと僕には思える。
例えば、原作では外界から切り離された「密室」のように描写されていた主人公・住田の家は、映画では、震災のためにホームレスとなった人々が寄り添って暮らす擬似コミュニティの中心として描かれるのだが、震災との関連性を無理やり持たせるための苦しい設定としか思えなかった。加えて、そもそも社会から孤立していることも、住田が父親を衝動的に殺してしまう一因なのだから、この変更はリアリティの面から見てもよろしくないとしか言いようがない。
また、原作では、住田とは対照的に、犯罪に加担してもなお、たくましく生き延びていく同級生の夜野が、ホームレスの一人(渡辺哲)に変更されているのにも違和感があった。夜野は「父親を殺したのだから自分も死ぬしかない」という視野狭窄に陥った住田に「別の道」があることを示す重要なキャラクターであり、だからこそ住田と同世代の俳優が演じるべき役なのだが、映画では、未来ある少年・住田に希望を託したい被災者のおっさんというだけの役どころになっており、これまた無理なことしてるなあ、という印象である。
これらの改変は、時折唐突に挿入される被災地の風景が、物語に寄与していると言い難いのと同様に、この作品にプラスの機能を果たしていないと僕は考える。端的に言って「ちぐはぐ」なのだ。
そのちぐはぐ感が終盤まで続き、もうダメか…と思った頃、突如として、この作品は原作を敢然と無視してしまう。


早朝、少年と少女が、泣きながら、叫びながら走っていく。行く先は明るいか暗いか、全く判然としない未来だ。


「ああ、これが言いたかったんだ」と不意に腑に落ちる。そして僕は全てを許してしまった。
映画としての『ヒミズ』は失敗していると思う。しかし「良い失敗作」だとも思うのだ。