パブリック 図書館の奇跡 (2018)

製作国:アメリ
監督:エミリオ・エステべス
脚本:エミリオ・エステべス
音楽:タイラー・ベイツジョアン・ヒギンボトム
出演:エミリオ・エステべス/アレック・ボールドウィンジェナ・マローンクリスチャン・スレイター 他
★★★☆☆


図書館のビリー・ザ・キッド

エミリオ・エステべスというと、僕にとっては“『ヤングガン』の人”です。『ヤングガン』2部作での彼が演じるビリー・ザ・キッドは、ゲラゲラ笑いながら人を射殺する超危険人物で、確か公開当時は「パンクなビリー・ザ・キッド」と形容されていたように記憶しています。たぶん今だったら「サイコパス的」とでも言われるんだろうと思いますが、僕は妙にこのキャラクターが好きなんですよ。確かに異常者ではあるんですが、気に入らない奴なら保安官だろうが政治家だろうが絶対に従わない、その激烈な反抗心にすごく惹かれるわけです。
で、本作でエミリオ・エステべスは、ビリー・ザ・キッドとは真逆の真面目な図書館員の役なんですけど、にもかかわらずビリー的な匂いがあるなと僕は思った。なぜかというと、ホームレスたちの図書館占拠が始まった当初は腰が引けていた彼が積極的に加担していくきっかけが、交渉するためにやってきた刑事(アレック・ボールドウィン)や検察官(クリスチャン・スレイター)への単純な反感だからです。「言ってることは正論だが、お前は気に入らないから従わない」という態度になってしまうところに、すごく「ビリー風味」を感じる。
彼が最初から確信犯的にホームレス側に立つ人物ではなく、初めはニュートラルな立場だったのが、警察にムカついたことをきっかけに段階的に深入りしていくというプロセスを辿ることが本作の重要なところだと僕には思えて、なぜかといえば、そうすることで観客は劇中の問題の是非を彼と共に徐々に考えることになるからです。
極寒の夜に、凍死するかもしれないホームレスを図書館から放り出すべきか否か? これは、昨年の台風19号の最中に持ち上がった、避難してきたホームレスを避難所から追い出すべきか否かという問題と同様であって全く他人事ではない訳ですが、本作が提示する答えはシンプルです。法律はどうあれ、弱い人間を救うべきだと真正面から言い切っている。むしろ何故、救ってはいけないのか? 何故、弱者は黙っていることを暗に求められるのか? 歯を食いしばって守らなければならない「きれいごと」というものが社会には存在していて、それが「公共の福祉」なのではないのか?と訴えている。
などと書くと、ものすごく堅苦しい映画のように思えるかもしれませんが、むしろ全編ライトなコメディタッチだし、全裸中年男性がノリノリで熱唱するシーンがオチの伏線になっているという映画史上初なのではないかと思わせる作品でもあるので、社会派が苦手な人にもお勧めです。