グロテスク

他人に「感動をもらう」ってどうよ?

監督:白石晃士
脚本:白石晃士
音楽:佐藤和郎
出演:長澤つぐみ/川連廣明/大迫茂生 他
ストーリー:初めてのデートの日に突然、謎の男(大迫茂生)に拉致監禁された和男(川連廣明)とアキ(長澤つぐみ)。恐怖に震える二人に男は「自分を感動させてくれたら解放する」と宣言。そして容赦ない拷問が始まった……。


この作品のチラシには、「カップルではご覧になられないでください」という但し書きが書かれているが、逆にカップルで観た方が面白く観られるのではないかと僕は思う。「お前が根を上げたら、次は彼女を拷問する」と脅された和男君が、何とかアキちゃんに拷問させまいと肉体的限界を遥かに超えて頑張る(チ●コを切断されるところまで我慢して、一度は謎の男に「感動した!」と言わせる)姿は、まさに「君のためなら死ねる」というセリフの実践であり、この陰惨極まりない作品の中の一服の清涼剤だ。鑑賞後、「私のためなら、あそこまでがんばれる?」「寝言は寝てから言えや、ブス」そんなスウィートな会話のネタにうってつけ。 しかし、「謎の男」は、そんな和男君の健気すぎる健闘を軽く一蹴する邪悪さを、その後発揮し、その結果、いっそすがすがしいくらいの救いのないエンディングを迎える。「人間の性、即ち悪なり」が座右の銘に違いない白石監督らしい作品としか言いようがない。
ところで以下は邪推なのだが、この素敵なガイ・キッチーぶりを見せる「謎の男」の「他人が苦しみに耐える姿を見て感動する」という心性は、最近割合ポピュラーなものであるような気がする。例えば、今年の某有名チャリティー番組における、「マラソンには、ずぶの素人である女性芸人にフルマラソン×3という恐るべき長距離を走らせて、その姿を中継する」という企画が成立したのは、その姿を見て感動するであろう視聴者の存在が十分想定できたからだろう。そして実際のところ、世の中のほとんどの人は感動したらしい。僕はちらっとTVで見かけて「公開リンチ」という言葉が頭に浮かんだが。
「謎の男」の造形には、そういう「他人に安直に感動を求める人々」への皮肉が含まれているのではないか……というのは、あまりにも穿ち過ぎだろうか。