BUG/バグ

僕にも見える、君にも見える、だから僕らはハッピーだ

アメリカ、オクラホマ州。レストランバーでウェイトレスをしているアグネス(アシュレイ・ジャッド)は、最近仮釈放された元夫ジェリー(ハリー・コニック・Jr)の暴力から逃れるため、あるモーテルで暮らしていた。そんなある日、彼女は友人からピーター(マイケル・シャノン)という流れ者の男を紹介される。二人は徐々に惹かれ合い、一緒に生活するようになるが、やがてピーターは目に見えないほど小さな「虫」への恐怖を露わにし始める。そしてピーターは「虫」と自分の関係についての秘密をアグネスに打ち明ける……。


アル中やヤク中になると、体中を虫が這い回る妄想に悩まされるようになるというのは有名な話である。軍による人体実験によって体内に正体不明の「虫」を寄生させられたと主張するピーターも、まあ、常識的に考えれば、単に妄想に苦しんでいる病人だろう。
だが、ピーターの体内に寄生していたはずの「虫」はやがてアグネスにも伝染する。アグネスはピーターの話を全面的に信じ、自分にも「虫」が寄生したのだと確信する。やがて二人の目には、彼らの体内から孵化した「虫」たちが部屋に充満するのが見えるようになってゆく……。
二人だけで狭いモーテルの一室で過ごすうちに、ピーターの妄想がアグネスに伝染したのだという推測はもちろん成立するだろう。しかし、そのためには不可欠なものがある。それは「愛」である。仮に妄想だとしても、愛し合っていなければ二人はそれを共有できなかったに違いない。
結局のところ、この作品では、果たしてピーターとアグネスが精神を病んでいたのか、それとも正常だったのかは、はっきりと説明されない。狂っていたのは彼らか、それとも世界か? その判断は観客に委ねられる。
しかし、ただひとつだけ確かなことは、狂っていようといまいと、二人は非常に深く愛し合っていたということだ。この作品は、近来稀にみる真正のラブストーリーなのである。