百万円と苦虫女

「ライク・ア・ローリング・ストーン」の辞め時

短大を卒業したものの、就職できずにフリーターをしている21歳の佐藤鈴子(蒼井優)は、ひょんなことから刑事事件を起こしてしまい、「前科者」になってしまう。実家に居づらくなった彼女は「百万円貯まったら出て行きます」と宣言。バイトをかけ持ちして懸命に働き、ついに百万円が貯まると、宣言通り実家を後にして、誰も知らない土地へと旅立った鈴子だったが……。


ボブ・ディランの『ライク・ア・ローリング・ストーン』は、住む家を失い、ひとりぼっちで生きる女性について哀れみを込めて歌った歌だった。
本作の主人公・鈴子もまた、自分では全く望みもしなかったのに、家を出て、一人で生きることを余儀なくされた女の子である。まるで『ライク・ア・ローリング・ストーン』のように。
しかし、彼女は他人に哀れまれるスキを見せずに、懸命に生きる。淡々と百万円を貯めるために働き、貯まったら別の場所に移動する。それを繰り返す。
彼女は劇中で、自分が何故そんな生活をしているのかを語る。「自分を探しているのではなく、むしろ自分から逃げている」のだと。
しかし「自分探し」が虚しい現実逃避であるのと同様に「自分から逃げる」こともまた虚しいことだ。だって、そんなことは不可能なのだから。
弟の起こした、ある行動を手紙で知らされた時、彼女は不意にそのことに気づく。
「転がる石のように生きる」ことの辞め時が訪れたことに、ラストシーンの彼女は既に気づいている。
彼女が次にどこへ行くのかは明らかにされないが、そこでの生き方が今までとは変わるのは確実だろう。石はもう転がらないのだ。