おそいひと

ごく簡単に、この作品のストーリーを紹介すると、主人公の男性が、ある些細なきっかけから精神のバランスを崩し、連続殺人犯になってしまうというものである。語弊を怖れずに言うならば、映画としては、ごくありふれた物語だ。
ただ唯一ユニークと言える点があるとすれば、主人公は電動車椅子を使用して移動する重度身体障害者であり、その役を実際に重度身体障害者の男性が演じているという点だけである。
この作品は「東京フィルメックス」というイベントで上映され、物議を醸したのだという。一体この作品のどこに「物議を醸す」ような問題点があるのか、僕にはさっぱりわからないのだが。
この映画を問題視した人々は、もしかしたら身体障害者が殺意を抱くことなどありえないとでも思っているのだろうか。それはあまりにも他者への想像力が欠如した考え方ではないか? 想像してみるといい。思うように動かない身体を与えられ、それだけでも耐え難いのに、周囲からは同情やら好奇心やらが混じった視線を向けられ、やりきれない苛立たしい日々を過ごす自分の姿を……。その状況で本人の心中にはどんな思いが渦を巻くのか? 異様などす黒い感情が芽生えても全く不自然ではないのではないか?
そういうある意味で「不謹慎な想像」を魅力的な作品に昇華した、この映画の監督にも、主人公を実名で演じた住田氏にも拍手を贈りたい。
(白)