ある用務員/ベイビーわるきゅーれ

ある用務員 (2020・日本)
監督:阪元裕吾
脚本:松平章全
音楽:SUPA LOVE
出演:福士誠治/芋生悠/前野朋哉/般若/山路和弘 他
★★★☆☆

ベイビーわるきゅーれ(2021・日本)
監督:阪元裕吾
脚本:阪元裕吾
音楽:SUPA LOVE
出演:髙石あかり/伊澤彩織/三元雅芸/辻凪子/仁科貴/本宮泰風 他
★★★☆☆

毒になる父・自立する娘

今年1月に公開された『ある用務員』と、現在公開中の『ベイビーわるきゅーれ』は、どちらも一義的にはエンターテインメント性の高いアクション映画ですが、両作共に“「毒親」の呪い”とでもいうべきものが裏テーマとしてあるように思うので、その観点からテキストを書いてみました。

※以下、『ある用務員』、『ベイビーわるきゅーれ』の内容に触れておりますので、それぞれ鑑賞後にお読みいただくことをお勧めします。


1 『ある用務員』の場合
本作の主人公(福士誠治)は、普段はとある高校の用務員として働いているんですが、実は凄腕の殺し屋。養父であるヤクザの組長(山路和弘)の命令で、組長の娘(芋生悠)のボディガードとして彼女が通う高校に潜入しているという訳です。
ある日、組長の意向に納得できない下部組織の人間が組長の暗殺を企てたことがきっかけとなって内部抗争が勃発。主人公は組長の娘を守るために、組長の愛人の息子(前野朋哉)が操る刺客たちと高校内で戦うはめになります。
ヤクザ組織内の抗争に絡んで、組長や組員の家族まで狙われるというのは映画のみならずフィクションではよくある展開ですが、本作では狙う者・守る者・守られる者全員が「組長の子」であり、しかも彼・彼女らはそれぞれに父である組長に人生を蹂躙されてきたという共通点がある。組長に殺し屋として育成されて彼の娘を陰から守る人生を余儀なくされてきた主人公、一方的な愛情を注ぐだけで自らの意思など全く考慮してくれない父親によって籠の鳥のような生活を強いられてきた娘、そして殺人などの汚れ仕事を組長によって一手に引き受けさせられて裏社会を生きてきた愛人の息子。
無人の校舎内で、JKの殺し屋コンビ・シホ(伊澤彩織)とリカ(髙石あかり)をはじめとするオモシロ刺客軍団と主人公が『ジョン・ウィック』シリーズばりの格闘&銃撃アクションを繰り広げるのはひたすら楽しいんですが、裏側を見れば完全に「毒親」としか言いようがない組長の被害者である子供たちが殺し合っているという構図な訳で何とも救われない。この観点からすると結構陰惨な映画だなあと思いますね。ラストシーンで、組長の娘が呪縛を自ら断ち切って歩き出す姿が描かれたにしても。


2 『ベイビーわるきゅーれ』の場合
『ある用務員』のシホとリカが、本作では、高校を卒業したばかりの殺し屋コンビ・ちさと(髙石あかり)とまひろ(伊澤彩織)に転生。こちらは『ある用務員』とは打って変わって、ゆるい日常系コメディとハードなアクションのミクスチャーといった感じです。
ちさととまひろのバックボーンは描かれませんが、どうも二人とも家族はいないように見える。じゃあ本作に“「毒親」の呪い”の影はないのか?と言えば、あると言いたい訳です。
彼女たちと対立することになるヤクザたちの初登場シーンで、「オヤジ」と呼びかけたあとにタメ口での会話が交わされます。ヤクザの間で「オヤジ」と言えば大抵「組長」なのでタメ口で話すのは変だなと思っていると、「オヤジ」と呼びかけられた本宮泰風と、呼びかけたうえきやサトシは本当に親子であるということがわかってくる。この二人に秋谷百音を含めた三人家族でヤクザをやっているんですね。
『ある用務員』の山路和弘が演じた組長は一見人格者風でありながら最悪な「毒親」でしたが、本作の本宮泰風もかなりのゲスな「毒親」で、息子のうえきやサトシと、その妹の秋谷百音を組のための犯罪行為で競わせており、そういう教育方針なもので息子も娘も本当にクズな感じの仕上がりになってしまっている、と感じさせる人物描写がこの監督は本当に上手いなと思う。
それはともかく本作では、このヤクザ一家の兄妹の妹と、ちさと&まひろが対比して描かれているように思います。父と子であると共に組長と組員でもあるという二重の上下関係に縛られて、しかし縛られていることにも気づかず父親から命じられるがままに生きている妹と、殺し屋の組織に属してはいるものの、それ以外には束縛されず自由気ままに自立して生きるちさとたちという構図だなあと。
だから、基本的に本作はかなりにゆるゆるでオフビートなコメディではあるんだけれど、『ある用務員』同様に自立して生きることの大切さという極めて真っ当なことを観客に投げかけている、と思いましたね。