悪人伝 (2019)

製作国:韓国
監督:イ・ウォンテ
脚本:イ・ウォンテ
音楽:チョ・ヨンウク
出演:マ・ドンソク/キム・ムヨル/キム・ソンギュ/キム・ユンソン 他
★★★★☆


良い奴、悪い奴、イカれてる奴

例えば主人公とライバル、刑事と犯罪者、ヒーローとヴィランなどの普段は対立関係にある二者が、ある目的のために一時的に共闘するというストーリーに、僕はどうにも抗い難い魅力を感じるタチなんですが、皆さんはどうでしょうか。例としてパッと思いつくのは『48時間』(1982/ウォルター・ヒル)。刑事(ニック・ノルティ)と囚人(エディ・マーフィー)が凶悪犯を逮捕するために48時間だけのコンビを組む話ですが、大好物としか言いようがない。
で、本作は超コワモテのヤクザの組長が連続無差別殺人犯に襲われたのをきっかけとして、犯人を追う狂犬じみた暴力刑事とタッグを組むことになる話なんで、上記の通り、完全に僕のストライクゾーンど真ん中であり、あらすじを知った段階で絶対に面白いと思ったし、観に行ったらやっぱり面白かった。
本作の面白さの最大の要素として挙げられるのは、これは『48時間』にもあてはまると思うんですけど、組長・刑事・殺人犯の三者のキャラクターがめちゃくちゃ立っていること。
まず組長のマ・ドンソク。この人は劇中でどんなにえげつない暴力を振るっても好感が持てるし、刺されても車にはねられても死なない不自然さも「まあ、こいつならアリか」という風に呑み込まされてしまうという、マンガの中の人が間違って現実世界に出てきちゃったみたいな稀有なキャラクターで「第二のシュワルツェネッガー」と呼んでもいいのでは?とさえ思いました。対してキム・ムヨルが演じる刑事は、相手がヤクザなら全くためらいなくカジュアルに暴行するスタイルの問題ありすぎな狂犬デカでありながら、どうにも憎めない田舎の兄ちゃん風のルックスと言動、そしてそれとは裏腹に意外にクレバーな面も併せ持っているのが魅力的です。
そして、この二人が追うことになる無差別殺人犯(キム・ソンギュ)も、残忍冷酷おまけに頭も切れるという手ごわさもさることながら、クルマに乗ったおっさんしか狙わないというなかなかにニッチな設定でグッときます。犯行の動機は一切明らかにならないんですが、完全にヤクザでしかない見た目のマ・ドンソクでさえ襲うんだから、この人、本当に「無差別」なんだなあ、本格派だなあという妙な感慨を覚えました。「誰でも良かった」と言いながら、実際には自分よりも弱そうな人間ばかり狙うような奴よりもはるかに好印象。て言うか誰でもいいにも程があるだろ。
もちろんキャラクターの魅力だけでなく、組長と刑事が手を組むものの、刑事の目的は犯人逮捕、組長の目的は犯人を拉致って拷問して殺害という真逆なもののため、互いに利用しつつ出し抜き合いもするというスリリングなストーリー展開が終盤まで続き、先が読めないのが素晴らしい。また、二人が安易に友情で結ばれたりせず、互いに相手の弱みを握り合ったり、捜査の過程で組長はもちろん刑事もしっかり手を汚したりするのを描くことで、アクションとしてだけでなく、きっちりノワールとして成立しているのも良いなと思いました。
そして、「なるほど!」とポンと膝を打つ納得のラストがビシッと決まって終映後、僕はもうニッコニコで席を立ちましたよ。マ・ドンソクファンはもちろん、この手の話に目がない僕のようなタイプになら絶対にお勧めの一作です。