空気人形

「心ある人形」の悲劇

監督:是枝裕和
脚本:是枝裕和
音楽:world's end girlfriend
出演:ペ・ドゥナARATA板尾創路 他
ストーリー:川沿いの古びたアパートに住む冴えない中年男・秀雄(板尾創路)は、空気人形(ペ・ドゥナ)を彼女のように大切にしていた。ある朝、空気人形は心を持ってしまう。秀雄が仕事に出かけた後、メイド服を着て外へ飛び出した空気人形は、あるレンタルビデオ店で働く純一(ARATA)に恋をする。以来、彼女はその店でアルバイトをするようになるのだが……。


善人が「心ある人」などと呼ばれ、善行が「心ある行為」などと呼ばれることを考えると、「心ある〜」という言葉には肯定的なニュアンスがあると言える。反対に「心ない〜」という言葉は否定的な意味合いで使われる。つまり人は「心がある」のは良い状態・肯定されるべき状態であり、「心がない」のは悪い状態・否定されるべき状態だと考えているのだと解釈できる。
さて、もともと心がなかった空気人形が心を持ち、つまり「心ある人形」になった結果、何が起こったか。結局誰も幸せにはなれなかった。「心がある」のは必ずしも良いことではないのだという残酷な現実が露出しただけだったのである。
僕たちは、心というものを無条件で「良いもの」だと考え、「ない」よりは「ある」方が良いものだと根拠なく確信している。しかし「心の闇」などという言葉があるように、心とは必ずしも良いもの・良い結果だけをもたらすものではない(もしそうでなければ、犯罪が起こるはずがない)。場合によっては「心ない」方が良いことだってあり得るのだ。この作品は、そんな風に「心」を見つめ直す契機を僕に与えてくれたのである。