狂気の海&インフェルノ 蹂躙

『狂気の海』:高橋洋の妄想が日本を沈没させる!

舞台は現代。国会での圧倒的議席数を背景に、首相・真壁晋太郎(田口トモロヲ)は憲法改正に着手しようとしていた。一方、首相夫人(中原翔子)はあくまで憲法9条を守るための、ある秘密計画を既に用意していた。そんな中、アメリカ大統領が何者かによって呪殺され、「FBI霊的国防部」捜査官・ライス(長宗我部陽子)が首相官邸に捜査に訪れる。ライスは、その場で呪殺用の人形を発見し、核ミサイルで攻撃されたくなければ犯人を見つけろと言い放つのだった……。


米大統領の暗殺に始まって、富士山に作られた極秘の核ミサイル施設、レーザー兵器を搭載した人工衛星、地下に隠れ潜む「富士王朝」の陰謀、そして、ついには日本沈没(某超大作と違って本当に沈みます)と、まともに製作したら3時間は超すんじゃないかと思われるギミック満載のシナリオを、わずか34分に凝縮した、もうスゴイとしか言いようがない作品。
激安感溢れる特撮シーンには失笑を禁じ得ないが、何やらワケのわからない熱気だけは画面から伝わってくる。
それは恐らく高橋洋の妄想から発される熱である。例えば、この作品では、憲法9条が重要なキーワードになっているが、高橋洋自身は別に護憲派でも改憲派でもないだろう。ただ彼が拘り続けているモノクロアニメ版「サイボーグ009」の「太平洋の亡霊」というエピソードによって駆動した妄想が、彼をして憲法9条を取り上げさせたに過ぎないのである。
他の要素にしても同様で、とにかく高橋洋の妄想だけで、この作品は成立している。ある意味、非常に実験的かつ「野蛮」な怪作である。高橋洋ファンなら必見。
(2008年8月8日修正)


インフェルノ 蹂躙』(1997):時代は、この作品に追いついてしまった

無差別に若い女性を選び、盗聴・盗撮の末、拉致監禁・陵辱した上に惨殺し、その死体を食べている変態殺人鬼夫婦(岩松武、由良よしこ)が次の標的に選んだのは一人暮らしの若いOL(白石ひとみ)だった。さらに彼らの魔の手は、そのOLの妹(立原麻衣)にも及んでいく……。


高橋洋が脚本を担当した、1997年製作のオリジナルビデオ作品。実はこれが観たくて、わざわざこの作品が併映される日を選んだのである。
もう10年以上前の作品だが、全然古びた感じはしない。むしろ、ストーカー、盗聴・盗撮など、もはや夕方のワイドショーの定番ネタと化し、あの江東区のマンションで起きた「美人OL失踪事件(後に隣人による殺人事件と判明)」のような殺伐とした事件が日常茶飯事的に起こるようになった、この2008年の現状を予想していたかのような内容に驚かされた。
上記のあらすじを読むと『悪魔のいけにえ』のような血みどろ描写満載なのかと思われるかもしれないが、高橋洋の悪意は、そのさらに上を行く。殺人鬼夫婦の隠れ家に置いてある巨大な冷蔵庫や、彼らが飼っている、人間の血に興奮する凶暴な犬たちなどの描写によって、誘拐されたOLの運命を暗示するに留めるのだ(それが却って観客にイヤな想像を強いる)。
そして、極めつけは「姉で作った」シチューを妹に食べさせるという展開。まさに高橋流残酷劇のひとつの頂点である。
是非DVD化を願って止まない。