孤狼の血(2017)

製作国:日本
監督:白石和彌
原作:柚月裕子
脚本:池上純哉
音楽:安川午朗
出演:役所広司松坂桃李真木よう子江口洋介石橋蓮司 他
★★★★☆


狼と豚と番犬

観ている間は退屈しなかったし、観終わって「ああ、面白かったな」と素直に思えた作品ではあるんだけれど、どうも気になったことがあるんですよ。
それは、この映画の中で重要なことは、ほぼ養豚場で起きるということです。冒頭のヤクザ達によるリンチも、役所広司が演じる悪徳刑事・大上(おおがみ)が、コンビを組んでいる日岡松坂桃李)に対して「正義」についての自分の考えを述べるのも、そして日岡が大上の意思を「継承」することを意味する最重要なシーンも全て同じ養豚場が舞台となっている。
それは、この物語のキーになる事件の現場だからなのでは?というもっともな捉え方もあるでしょうが、ここはあえて深読みをしてみたい。
養豚場には当然のごとく豚たちがいるわけですが、この「豚」が何かを象徴しているのではないかと考えてみると、戦うための牙も爪も持たない彼らは、ヤクザという「狼」に狙われたら一巻の終わりとなるような、無力な一般市民なのではなかろうかと思うんですね。そして、彼らを守るための「番犬」として警察が存在しているという、この作品中の世界の構図が、この養豚場で示されているのではないか。だからこそ、ここが重要な場面の舞台として設定されているのではないか。
そうであるとして、警察が番犬であるならば、狼を豚たちから遠ざけることに専念すれば、本来はそれで良いはずです。しかし狼と豚が共存することが最もリスクなく社会の治安を守る方法だと考える大上は、番犬でありながら狼と深く関わる道を選択したわけです。そのために狼にはもちろん、仲間である番犬たちからも忌み嫌われ、果ては命まで狙われてしまう。
それでも自分の信じる「正義」のためになりふり構わず行動する姿に、日岡も観客である我々もどんどん魅せられていくんですね。暴力シーンばかり取り上げられがちな本作ですが、実は一番の見どころはここだと思う。テイストは全く違うんですが『ダーティハリー』を思い出しました。
ところで原作は未読なんですが、上記の養豚場の件はただ単に原作どおりにしただけ、ということなら、もはや単なる妄言でしかないので、どうか読まなかったことにしてくださいとお願いしておきます。