2006年ベストテンby犬温


「シネパカ」誌上では「ナチュラル・ボーン・バカーズ」という、どこかで聞いたことがあるような名前のユニットを僕と組んでいる(木)こと「犬温」氏から昨年のベストテンが今頃届きまして、載せろというので載せます。彼のブログ「犬温雑記」も大変面白いので、今鼻くそをほじっては食べ、ほじっては食べしながら読んでるそこのキミもチェ・キ・ラ!(こずえ鈴風に)(以下、犬温原稿)


寒中お見舞い申し上げます。
ミニコミ版「シネパカ」残党の1人、(木)改め(犬)でございます。
「おまえも送ってきたら載せてやるよ」と、いやないやあな顔で言われたので、ベスト10、いやないやあな顔で選出させていただきました。
これからもよろしくお願いいたします。


■ベスト10

1.時をかける少女
紺野真琴! 紺野真琴! 世間では「青春映画」として評価されているようだが、それも彼女の魅力的すぎるキャラクターがあってこそ。脚本も演出も作画も美術も音響も音楽も、全ては紺野真琴という映画初出演の少女を輝かせるために奉仕しているのだ。第2回主演作品まだー?と真顔で言いたくもなる、アニメーションだからこそ成し得た極上の「アイドル映画」。


2.デビルズ・リジェクト マーダー・ライド・ショー2
最低。でも最高なんだ。アウトローと呼ぶには極悪非道すぎる猟奇殺人ファミリー。彼らの地獄の逃避行に前半マジでドン引きしつつも、自由を求めるが故に滅びゆく姿に、いつの間にやら涙、涙。70年代アメリカン・ニューシネマへの匂い立つような愛情にむせ返る、時代錯誤もいいところの埃っぽい傑作。サントラも最高。


3.ミュンヘン
ダークサイドのスピルバーグが、そのエモーションもテクニックも出し惜しみなしに全開! 絶望一色なのに極上のエンターテインメント、という居心地の悪さに悶えまくる3時間。


4.グエムル/漢江の怪物
怪獣映画とホームドラマ。食い合わせの悪そうな2つのジャンルを強引にまとめ上げてみたら、やっぱり食中毒をおこしたようなとんでもない怪作に…。バカVS怪獣というモチーフに明、虚を衝かれまくる展開に清、と日本の2人のクロサワを想起してみたり。


5.SPL 狼よ静かに死ね
男たちの挽歌』直系の、怒濤の浪花節に流血のバイオレンス。意地と怒りが爆発する、感情表現としての凄惨な肉体アクション。香港ノワールの真髄を久々に堪能させていただきました。


6.映画ドラえもんのび太の恐竜2006
ざわざわとした描線で、ざわざわとお馴染みのキャラクターが動きまくる。『ドラえもん』なのにマニアックな作画アニメ、という驚きが全編にわたって持続する。先代シリーズの呪縛をビジュアルのインパクトで断ち切った荒療治を、大いに支持したい(ピー助の神木君は除く)。


7.カジノ・ロワイヤル
事前の期待が低すぎただけに、この面白さはうれしい不意打ちです(美味しんぼ調)。6代目ジェームズ・ボンドダニエル・クレイグマーティン・キャンベル監督に、この場を借りておわび申し上げます。さんざん「つまんなそう」って悪態を吐いて、ごめんなさいねー。


8.マイアミ・バイス
本作にはアクションのカタルシスも潜入捜査のサスペンスもキャラクターが織りなすドラマもTVシリーズの雰囲気も、とにかく何も無い。あるのはマイケル・マン監督の「スタイル」だけ。言ってみれば「チョイ悪オヤジ」が読むファッション雑誌のような映画なんだけど、どうにも好きなんだよなあ。


9.グッドナイト&グッドラック
冷戦下のアメリカで「赤狩り」を推進するマッカーシー上院議員に立ち向かった、人気ニュース番組のスタッフ達。いくらでも仰々しく感動的に作れそうな題材を、ジョージ・クルーニー監督は、良識ある普通の人々が、ただ職務を全うしようとしただけの普通の日常として描く。素晴らしい。


10.ピンクパンサー
ロマンスグレーのスティーヴ・マーティンが演じる元祖ドジ警部クルーゾーは『裸の銃を持つ男』のパチモンにしか見えず、幼稚なギャグも90%は笑えない。だが「英会話のレッスン」だけは、何度観ても爆笑必至の奇跡のように素晴らしい名シーン。これとコケティッシュなメガネ秘書さんだけで余裕のベスト10入りです。


■2006年度ワースト3

1.ウルトラヴァイオレット
これほど空虚な映画体験は久しぶりDEATH!


2.フライトプラン
映画がナめられている……。観客もナめられている……。


3.ヒストリー・オブ・バイオレンス
タイトル負けのこぢんまりとしたお話に拍子抜けしたのは、自分が悪いんでしょうね。


■選外

ユナイテッド93
出来の良さ故に評価に悩む映画なんて、初めてかも。ポール・グリーングラス監督の選択したアプローチが正しいものだったのか、どうにも判断がつかないのだ。やはり評価の分かれ目は「見てきたように嘘を言い」な部分、特にラスト10分の機内の描写だろう。これがロン・ハワード監督あたりがお得意の「事実に基づいた物語」風のマイルドな演出なら素直に共感したり反発したりもできたんだろうけど…。例えば「Let's Roll!」と乗客が立ち上がった瞬間に暗転、残された音声だけ流して終わり、なんて見せ方とかは小賢しいかなあ?

以上!(犬)