2008年度公開映画ベスト10 by 犬温

銭や……ごっつい銭の臭いがするでぇ……!(神社の賽銭箱の周りをクンクンしながら)」

そういうワケで、どうも、金の亡者こと「シネパカ」管理人「白」です。
一応「シネパカ」構成員であるところの犬温(バカ)から、完全にタイミングをハズした今頃になって、ようやくヤツの2008年ベストテンが届きましたので、3秒に1度の頻度で舌打ちしつつ、しぶしぶアップしましたよ。
まあ、読んでやってください。

(以下、犬温原稿)
風邪薬と「ゴックンはしていない」「たしなむ程度」のワインで、去年の秋からもうずっといい感じに酩酊状態だった「シネパカ」幽霊部員、犬温です。
今年も「キミ、たいがいにせぇよ」と、もはや完全に怒りを通り越した仮面のような無表情で、静かに静かぁに言われましたので、恐怖でスカッと酔いのさめた頭をひねりながらベスト10を選出させていただきました。
犬温雑記で各選評の補足なんかも出来たら良いですねえ(また急速に焦点の定まらない虚ろな瞳に戻りながら)。


■ベスト10


1.『ダークナイト
ただただ悪い事をするのが「うれしたのし大好き」で、「人が堕ちる瞬間を見てしまった…」とときめくジョーカー。完全に純粋な悪の結晶が放つ輝きも、「ヒーローとして軸がぶれているバットマンの、ただただ暗い受けの存在があってのもの。アメコミ・ヒーロー映画だからこそ到達できた、善悪についての物語の、一つの至高にして究極。


2.『ランボー 最後の戦場
「ワンマン・アーミー」映画という80年代に狂い咲いた時代の徒花に落とし前をつけるべく、20年ぶりに復活したシリーズ第4作。「傑作」とか「駄作」とか、単純に評するにはあまりに禍々しい雰囲気をまとった本作には、「映画の魔」と言うべき何かが執り憑いているとしか思えない。


3.『崖の上のポニョ
宮崎駿が描く「3人の母」の物語は、本家ダリオ・アルジェントを軽く凌駕する、無気味で不可解な代物だった。「これ、クトゥルフ神話じゃね?」と看破した秀逸すぎる評もあったが、トンネル内でのポニョの退化や、2人の母が何やら密談している後ろ姿など、悪夢のようなイメージがてんこ盛り。『もののけ姫』以降ではブッちぎりで大好きです。


4.『ミスト』
今回のベスト10選出作品の大半がそうなんだけれど、一般には低俗とされるジャンルだからこそ語る事ができるドラマが確実に存在すると思う。まだまだ秘められているはずの可能性を信じて、こういう真摯なジャンル映画をもっともっと作ってもらいたい。


5.『片腕マシンガール
モラルを確認する教条的な映画も良いんだけれど、モラルを徹底的に破壊できるのも映画に許された特権だったはず。だが不穏な事件が続く社会情勢を気にして規制規制の自縄自縛が続いた邦画界は、もうずいぶんと長い間、この特権を行使する事をさぼり続けてきた。そんな中、井口昇監督は本当に素晴らしい仕事をしてくれたと思います。


6.『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
ただただ「映画的」としか言い様の無い、豊穰で極上な映画体験。実はDVDで観てしまった事が非常に悔まれるのだが、キューブリックジャック・ニコルソンが憑依したかの様なクライマックスの「対決」シーンに思いっきり笑い転げる事が出来たので、良しとする。


7.『28週後…』
ある過ちのおかげで、先の英国崩壊事態を生き延びる事が出来たロバート・カーライル。「ははーん、彼が夫として、父親としての尊厳を取り戻し、ばらばらだった家族が再生されていく展開ね」と余裕ぶっこいて観てたら、全然そんな甘い話じゃなくて驚いた。凡作だった前作『28日後…』とは打って変わったような、新世代ゾンビ映画群を代表する傑作。


8.『エグザイル/絆』
バカな男たちが放つ一世一代の最高の笑顔が、高笑いが、脳裏に灼きついて離れない。同一スタッフ&キャストの『ザ・ミッション 非情の掟』の方が好みだが、対照的にゆるゆるでいい加減な雰囲気に満ちた本作も、またたまらなく心地よい。


9.『ホット・ファズ  俺たちスーパーポリスメン!』
バカ映画のように言われているけれど、その作りはとても端正でクレバー。ホラー映画もびっくりの血まみれ残酷シーンやブラック過ぎる事件の真相は、流石「モンティ・パイソン」を生んだお国柄。コメディ枠という事で、より大味で無邪気でアメリカンな『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』との入れ替えも可。


10.『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー
表層的には冷戦下の感動的な実録秘話だが、何せ僕らはこの物語の「その後」を知っている訳で、全ては薄ら寒く居心地の悪い茶番劇へと転じてしまう。マイク・ニコルズ監督の底意地の悪い知性は相当のもの。薄っぺらい正義漢を余裕で演じるトム・ハンクス、流石の巧さのフィリップ・シーモア・ホフマン、怪女優へと変貌を遂げたジュリア・ロバーツ、と役者陣も充実。


■ワースト


ノーカントリー
終盤のある一点を除いて非常に素晴らしい出来なのだが、それ故にその一点が個人的にはどうしようもなく苦痛で堪え難かった。コーエン兄弟の意表を衝いた作風は、よく「オフビート」などと評されているが、今回の幼稚で愚かな思いつきは、本作を残念な失敗作へと貶めた。手放しで絶賛している連中、特にその一点を面白がったり、したり顔で擁護している輩は、つまる所、この種のジャンルに対する愛情が薄いんだろうな。