枝葉のこと(2017)

製作国:日本
監督:二ノ宮隆太郎
脚本:二ノ宮隆太郎
出演:二ノ宮隆太郎松本大樹/堀内暁子/いまおかしんじ 他
★★★★☆


彷徨する不発弾

この映画の主人公・隆太郎(二ノ宮隆太郎)は何を考えているのか、少なくとも最初のうちは全然わかりません。徹底して無表情で、言葉も滅多に発しないからです。
しかし、その死んだ魚のような目つき、潔癖症的な手の洗い方、忙しないタバコの喫い方、無茶な酒の飲み方、そして印象的な速足での歩き方など、カメラが捉える彼の日常的な仕種の端々から、何故だかわからないが、彼が異様に苛立っていることだけは伝わってくる。
彼に関する説明的なセリフは一切ないんですが、物語の進行につれて彼の過去と現在が徐々にわかってくる。実家から徒歩圏内の場所で一人暮らしをしていること。その部屋の近くにある自動車の修理工場に勤めていて、先輩や後輩と仕事帰りに飲み歩く日々を送っていること。そして、やはり近所に、子供の頃に一時期預けられていて世話になり、いまや死を目前にしている「おばさん」が住んでいること。
この「おばさん」の傍らにいる時だけは、この男の苛立ちも影を潜め、彼女には愛情を込めた眼差しさえ向けるんですが、それ以外の場面では表面に表すことなく周囲への、そして恐らく地元から出て行けない自分への鬱屈した気持ちをひたすら募らせている。言わば、いつ爆発するかわからない不発弾が服を着て歩いているような男なのであり、そんな男がこのまま何もしないとは到底思えないわけで、自分の部屋と仕事場と飲み屋と「おばさん」の家と実家をぐるぐる歩き回るだけと言ってもいい彼の日常を追っているだけなのに、どんどんサスペンスフルになっていくんですよ。正直、こんな映画、初めて観たかもしれない。
次の瞬間、この男は酒癖の悪い先輩や、ウザいだけの後輩や、密かに付き合っている(あるいはセフレの?)飲み屋の女の子を、あるいはまったく関係のない人間でさえも殺してしまうのではないか? そんな暴力の気配だけがひたすら高まっていく。そして、ある人物の前で、それまでの無表情をかなぐり捨て、怒りをむき出しにした瞬間、この映画は終わります。
ついに不発弾が爆発してしまったあと、どうなるのか? たぶんですが彼は地元から外の世界への一歩を踏み出すんだろうな、と。ラストシーンからは全くそんな匂いはしないにも関わらず何故かそう思いました。