フィクサー

人間やめますか? 会社員やめますか?

ニューヨークの大手法律事務所に所属するマイケル・クレイトン(ジョージ・クルーニー)は、トラブルを裏で交渉して処理する“フィクサー(もみ消し屋)”を長年務めている。ギャンブル中毒、親権争い、借金と、彼の私生活は問題が山積みだ。そんなある日、巨大農薬会社U・ノースに対する30億ドルの集団訴訟でU・ノースの弁護を担当している同僚のアーサー(トム・ウィルキンソン)が、原告と協議中に突然服を脱ぐという奇行をしでかしてしまう。事態の収拾を任されたマイケルは、アーサーがU・ノースの内部資料を掴んでいることを知る。一方、U・ノースの法務部本部長カレン(ティルダ・スウィントン)も、この緊急事態を解決しようとしていた……。


まあ、よくあることだが、この作品、宣伝から予想される内容とは全く違うので、そこにまずちょっと驚いた。「もみ消し屋」という意味の言葉がタイトルになっているのだから、当然、主人公のマイケルが巧妙に依頼人の違法行為を「なかったこと」にしていくプロセスが描かれるのだとばかり思っていたら、彼のその方面の活躍は一切描かれないのである。
その代わりに描かれるのは、マイケルを含めた主要人物3人の、何ともしょっぱい人生模様である。完全な善人でも悪人でもない、ごく普通の会社員でしかない彼らは皆、自らが所属する企業に人生を翻弄されている。
アーサーはU・ノースを弁護する過程で、この会社が自社の農薬の有害性に関する不利なデータを隠蔽していることを知り、良心の呵責から躁鬱病を発症してしまう(裸になったのもそのためだった)。彼は入手したデータを公開し、それまでの罪を償おうとするが、その願いは果たされない。
カレンは、U・ノースを守ろうとするあまり、ついに非合法な手段でアーサーの口を封じることを決意する。その決断をした後、トイレで腋汗びっしょりになって震える姿が実にリアルだ。
そしてマイケルは、私生活の問題に悩まされつつ事態の収拾を図るが、結局その努力は報われない。それどころか命を狙われる羽目にまで陥る。
たぶん、そういう事態に直面して初めて、彼は、ある真実に到達したのだ。
「会社のために、自分の命まで賭けることはねえよなあ」という、ごくシンプルな真実に。
ラストシーン、自分なりに決着をつけた後にタクシーに乗り込んだマイケルの表情が、ごく近い将来に失業確定なのにもかかわらず、妙に晴ればれとしているのは、きっとそのためだ。
仕事に打ち込むあまり、「会社より命の方が大事」という当然のことに頭が回らないでいるサラリーマンの方に是非ともお勧めの作品である。