バンテージ・ポイント

「観客の特権」を享受する90分

宣伝コピーにもあるように、この作品では、スペインでのアメリカ大統領狙撃事件の発生の前後を、主要な登場人物の様々な視点から見せていく。まずシガーニー・ウィーヴァー演じるTVディレクターの視点から始まり、彼女のパートが終わると時間が巻き戻されて、シークレットサービス役のデニス・クエイドの視点に移る。それが終わると、また巻き戻されて、さらに別の人物の視点に……といった具合で(僕の記憶では)都合5回、観客は同じ場面を、それぞれの人物の視点から観ることになる。
当然のことだが、それぞれの人物はお互いに視点も体験も共有できない。だから、とりあえず自分の目撃した人物を追跡したり、自分の置かれた状況に対処したりすることしかできない。彼らがパズルの中のどこに位置するピースなのかを理解できる特権を持つのは、この作品の観客である僕らだけである。この当たり前のことを強く意識させる面白い脚本だと思う。
ただ、ケチをつけるワケではないけれど、観終わったあとによく考えてみると、別にデニス・クエイドが何もしなくても、事件は自然に解決していた可能性が高いことに気づいた。もちろんネタバレになるから詳述はしない。是非自分の眼で確かめてみてほしい。