レ・ミゼラブル (2019)

製作国:フランス
監督:ラジ・リ
脚本:ラジ・リ/ジョルダーノ・ジェデルリーニ/アレクシ・マナンティ
音楽:ピンク・ノイズ
出演:ダミアン・ボナール/アレクシ・マナンティ/ジブリル・ゾンガ/ジャンヌ・バリバール 他
★★★☆☆


このろくでもない「無情」の世界

本作の舞台は、フランス・パリ郊外のモンフェルメイユ。低所得者層が住む団地が立ち並び、犯罪多発地区とされているこの街に、ステファン(ダミアン・ボナール)という警官が赴任してきたところから物語はスタート。彼は、さっそくクリス(アレクシ・マナンティ)とグワダ(ジブリル・ゾンガ)という二人の先輩警官にパトロールに連れ出され、クリスたちが、団地を仕切るギャングや麻薬の売人などとがっちり癒着しているダーティーな一面を目の当たりにさせられるので、これは例えば『トレーニング デイ』(2001)のような悪徳警官の物語になっていくのかな?などと思いながら観ていると、ロマ(ジプシー)のサーカス団からライオンの子供が盗まれるという、なんだか牧歌的な事件が発生してから流れが変わります。
仔ライオンを盗んだ移民の少年・イッサを、何とか追い詰めたステファンたちでしたが、操作を誤ったのか無意識にやってしまったのか、とにかくグワダがゴム弾をイッサの顔に至近距離からぶち当てて大ケガを負わせてしまい、しかもその一部始終を、イスラム教徒の少年が操作していたドローンによって偶然撮影されてしまったことから、その動画データの争奪戦が勃発。データの外部への流出を絶対阻止したいクリスたちと、この際警察に協力して恩を売っておきたい売人、さらにデータを入手して警察の弱みを握りたいギャングといった面々がドローン少年を追いかける。ビビりあがった少年はイスラム教徒が経営するケバブショップに逃げ込み、店内で一歩間違えればお互いに殺し合いという緊張状態に陥ってしまう。
しかし、さすがにそこまで大事にはしたくない大人同士の思惑によって話し合いがなされて、その場は一応丸く収まるんですが、収まらないのが当の被害者のイッサとその悪ガキ仲間。打ち上げ花火と火炎瓶を武器にして、ギャングや売人、警察さえも襲撃し始める……。
まあね、警察・ギャング・売人・イスラム教徒が全員参加の血を血で洗うバトルロイヤルが始まる!と思って内心ワクワクしていたら、団地の悪ガキどもの暴動がクライマックスになってしまって、正直「あれ?」とは思ったんですが、観終わって思い返すと、これはむしろ必然的な流れなのかもしれんなと納得しましたね。だって登場する大人がほぼ全員、自分のことしか考えていない状態で、本来子供に大人が与えるべき「情」に欠けているどころか、そもそもそういう人としての大事な部分はどこかに置き忘れてきましたってな風情の人間ばかりなので、そういう大人が幅を利かせる社会では結局しわ寄せが子供の方に来てしまうのだから、そりゃ爆発もするよなと。
しかも、この映画、現実に起こったエピソードから脚本が作られているということなので、これはもしかすると既存の社会はもちろん、宗教にも反社会的勢力にも希望を見出せない子供たちが暴動(不登校、引きこもり、家庭内暴力や自殺という形にもなると思う)を起こすというのが21世紀の、この「無情」な世界における宿痾になっていくんじゃないか、そしてそれは日本も決して例外ではないのではないかと、そういうイヤな予感を感じました。

※9月2日、10月12日加筆修正