プリズン・サークル (2019)

製作国:日本
監督:坂上
アニメーション監督:若見ありさ
音楽:松本祐一/鈴木治行
★★★★★


「相応の罰」を受けた人たち

この映画を観ようと思った動機なんですが、単純に「日本初の刑務所内ドキュメンタリー映画」だったからです。刑務所ってどんな所なのか一度見てみたかったんす、というアホみたいな野次馬根性に駆られて観に行った。そして打ちのめされた。世の中には、観ている最中の人間を心の底から真顔にする映画というものが稀に存在するんですが、本作は間違いなくそのうちの一本です。
舞台となるのは「島根あさひ社会復帰促進センター」。名前からして刑務所っぽくないですが、センター内の内装や設備、ICタグCCTVカメラを使った受刑者の監視方法などからも、良い意味で刑務所らしからぬ先進的な印象を受けました。
本作の撮影スタッフは、日本で唯一、ここだけで導入されている、受刑者同士の対話をベースとした「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」という更生のためのプログラムに参加した、窃盗・詐欺・強盗傷人・傷害致死などで服役する4人の若者を丹念に追い続けていくわけですが、驚いたのは、この4人全員が、いじめ・虐待・貧困のいずれか、あるいは全てを必ず過去に経験しているということ。
よく児童虐待がらみの事件についての報道で「暴力の連鎖」「虐待の連鎖」などという言葉が使われているのを見るけれど、実際にこうやって、その「連鎖」がもたらした結果を突きつけられると暗澹とした気持ちにならざるを得ない。虐待犯やいじめ加害者には、是非とも本作を見せるべきだと心底思いますね。お前らが暴力を振るった結果、先々こういう不幸が再生産されるかもしれないんだということを知ってもらいたい。
そんな過酷な過去を持った彼らの、それぞれ自分の犯した罪に徐々に向き合っていく姿をカメラは捉えていくんですが、特に強く印象に残ったのは「健太郎」という受刑者が、プログラムの一環として、他の受刑者がロールプレイングとして演じる「自分の事件の被害者」と対話するシークエンスです。「被害者」たちが浴びせる「なぜ私を襲ったんですか?」などの言葉がぐさぐさと突き刺さって、彼は途中から涙を流し始める。被害者の味わった辛さ・恐れ・悲しみ・憤りなどが「健太郎」自身のもののように感じられたのだと思われる場面の一部始終に立ち会ったという感があり、震撼させられました。
でも、本作を観て「犯罪者なのに、こんな小綺麗な施設で特別なプログラムを受けられて、イイご身分ですなあ」みたいな感想を抱く人もいるかもしれないと思うんですけど、いや、これはガッチリ「相応の罰」を受けた人たちを捉えた映画だと思うんですよと反論したい。だって、この4人は「自分がやったことは、こんなにも酷いことだったんだ」と思い知らされるわけですから、考え方によっては死刑より辛いかもしれない。犯罪を一度でも犯した人間の「更生」について否定的な人にこそ観ていただいて、考えてほしい作品です。