スリー・ビルボード(2017)

製作国:イギリス/アメリ
監督:マーティン・マクドナー
脚本:マーティン・マクドナー
音楽:カーター・バーウェル
出演:フランシス・マクドーマンドウディ・ハレルソンサム・ロックウェルルーカス・ヘッジズ 他
★★★★★


人間発見エンターテインメント

舞台はミズーリ州のエビングという小さな町。7ヶ月前に娘がレイプされ、殺されてしまったミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は、町はずれにある三枚のビルボード(野外広告)を借りて「娘はレイプされて焼き殺された」「未だに犯人が捕まらない」「どうして、ウィロビー署長?」という強烈な警察批判のメッセージを掲示します。
ウディ・ハレルソン演じるウィロビーが、警察署員だけでなく町の住人たちからも尊敬されている人格者であることから、ミルドレッドは町の牧師や離婚した夫、息子のロビー(ルーカス・ヘッジズ)からさえも批判され、広告を取り下げるように忠告されますが、彼女は断固として拒否する。ここで、この監督凄いなと思ったのは、ミルドレッドがあまりにも頑なすぎてイヤなババアにさえ見えるということです。この(変な表現ですが)「容赦なく公平な視線」はウィロビーにも、また彼を敬愛するレイシストの警官ディクソン(サム・ロックウェル)にも向けられます。
それによってウィロビーの、警察署長としての威厳に満ちた態度の裏側に隠された脆さや、典型的な暴力警官に見えるディクソンの意外な側面が徐々に明らかになっていく。その過程で観客である僕に何が起こったかというと、始めはミルドレッドに同情的だったんですが、それがウィロビーに移行し、さらにはディクソンにさえ、そんな気持ちを抱くようになっていったわけです。つまり観ているうちに誰に肩入れし、誰を憎むべきか、どんどんわからなくなっていく。それに戸惑うと共にすごく面白いなと思った。人間の、表面的にはわからない部分がどんどん発見されていくということがエンターテインメント足り得るんだということを、この映画で知った気がします。