ジャンゴ 繋がれざる者(2012)

製作国:アメリ
監督:クエンティン・タランティーノ
脚本:クエンティン・タランティーノ
出演:ジェイミー・フォックスクリストフ・ヴァルツレオナルド・ディカプリオ 他
初公開年月:2013/03/01
★★★★☆


生真面目な王様

タイタニック』(1997)で第70回アカデミー賞監督賞を受賞したジェームズ・キャメロンが、劇中のディカプリオの台詞を借りて「俺は世界の王様だ!」と叫んだのは有名な話だが、現在、「世界」とまではいかずとも、少なくとも「俺はハリウッドの王様だ!」と叫んだとしても違和感がない映画監督と言えば、クエンティン・タランティーノ以外いないだろう。
何故そんなことが言えるか? それは、とりもなおさず本作のような作品を撮ることができ、そして公開されたという事実が、そう物語っていると思うからだ。考えてもみてほしい。とっくに滅び去ったと言っても過言ではない「マカロニ・ウエスタン」を、この21世紀に何の必然性もなく復活させるなどというデタラメを実現できる人間が他にいるだろうか? つまり、今やタランティーノは、題材は甚だしく趣味的だが、それでも面白い映画を作ることは保証付きだという絶対的な信用を得ているということだ。こんな稀有な監督が「ハリウッドの王様」でなくてなんだというのだ。
当然、内容も自分の趣味全開で、もしかすると『イングロリアス〜』よりも更にやりたい放題やっているんじゃないだろうなと思いつつ、ちょっと身構えながら鑑賞に臨んだのだが、本作はいつもの「タランティーノ節」とも言うべき冗長な会話シーンや、変態ギリギリのフェティッシュな要素などが抑制され、予想外に正統派のアクション映画に仕上がっていて、ちょっと意外だった。
しかし、それよりも驚きだったのは、タランティーノが、レイシズムに対する潔癖とも言えるほどの反発を、ド直球で表現していたことだ。
それが示されるのは、キング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)がカルビン・キャンディ(レオナルド・ディカプリオ)を射殺するに至るシークエンスである。いろいろとありつつも、ジャンゴ(ジェイミー・フォックス)の妻・ブルームヒルダ(ケリー・ワシントン)をキャンディから何とか買い戻すことに成功したジャンゴとシュルツが、長居は無用とばかりにキャンディの屋敷から出ようとした時、キャンディはシュルツに握手を求めてくる。シュルツは丁寧に断るが、キャンディは握手に応じなければブルームヒルダの売買契約は成立しないなどと難癖をつけてくる。やむを得ずキャンディに向かい合うシュルツ。嫌々握手に応じるのかと思いきや、次の瞬間キャンディの左胸から鮮血が流れる…。振り向いたシュルツは何事もなかったかのように「どうしても我慢できなくてね」
本作を鑑賞済みの方ならおわかりだと思うが、これはキング・シュルツというキャラクターからは全く考えられない軽率な行動なのである。ここに至るまで常に冷静沈着で、相手の一枚も二枚も上手を取ってきた海千山千の賞金稼ぎである彼なのに、このタイミングでキャンディを撃てば、たちまち傍に控える用心棒に射殺されることがわかりきっているにもかかわらず、単に「キャンディとどうしても握手したくない」から殺してしまう。
この不合理としか言いようがないシークエンスが撮られ、完成したフィルムに残されているのは「人種差別主義者とは形だけでも握手なんかしたくない!」というタランティーノ自身の意志が込められているからだとしか考えられないのだ。彼の「本気」がこのシークエンスには刻まれている。なんという生真面目さだろう。僕は彼を少し見直した。