佐々木、イン、マイマイン (2020)

製作国:日本
監督:内山拓
脚本:内山拓也/細川岳
音楽:小野川浩幸
出演:藤原季節/細川岳/萩原みのり/遊屋慎太郎/森優作 他
★★★★☆


俺とあいつの友情残酷物語

写真家の幡野広志氏による「cakes」というサイトでの人生相談の連載が僕は割と好きで、よく読んでいたんですが先月末に連載終了となりました。ご存知の方も多いでしょうが、14歳の女子中学生の相談への回答が炎上したことが原因です。
問題の記事は、要するに相談者の幼馴染の14歳の少女が19歳の男性と避妊しないでセックスしていて、母親からはどうも虐待されているらしいんだけど、どうしたらいいでしょうか?という相談内容で、これに対して幡野氏が、雑にまとめると「君には幼馴染の問題をどうすることもできないから、まずは自分のことを考えよう」という感じの回答を返したら「未成年者が性暴力と児童虐待に晒されているのに放置するのか!」という怒りの声が多く寄せられて炎上した訳です。
件の記事を読んでみた個人的な感想としては、確かにかなり冷たい感じではあると思う。でも幡野氏の人生相談はそもそも割と相談者に突き放し気味な回答をするのが持ち味なので、そういう意味では平常運転だったんですけど、やっぱり未成年者が相手というのがマズかったということなんですかね。知らんけど。

※以下、本作の内容に触れておりますので、鑑賞後にお読みいただくことをお勧めします。

ところで、何でこんな周回遅れの話題を持ち出したのかといえば、この相談の核心である「友達が危なっかしい状況にある時、口出しするべきか、しないべきか?」という問題が、本作にとっても極めて重要な要素なのではないかと思うからです。
本作の主人公・悠二(藤原季節)の高校時代の悪友・佐々木(細川岳)は、周囲に煽られれば躊躇なくその場で全裸になるという破天荒ムーブと、それとは裏腹の繊細さで、高校卒業後も悠二のハートをがっちりつかみ続けている存在なんですが、その佐々木と、上京して売れない俳優となった悠二が地元で再会するシークエンスがあります。悠二とは対照的に地元でくすぶり続けてきたらしい佐々木は、再会した時にはいわゆるパチプロになっている。まあ、まともな職業とは言い難いことで飯を食っているという訳ですが、それを聞いても悠二は(何か言いたげな表情はするものの)何も言えない。
友達なのに何故何も言わないのか、パチプロなんて不安定なことをやってないで就職しろと言ってやるのが真の友達じゃないのか? そう思う人もいると思う。けれど僕には、ここで何も言えない悠二の気持ちがわかる気がするんですよ。
むしろ友達だから何も言えない訳です。佐々木を自分と対等の人間として尊重しているからこそ、その佐々木の選択にとやかく言えないという逆説的な状況が生まれている。友達に「まともな生き方をしろよ」と忠告したりされたり、就職先を紹介したりされたりという事態になった時点で、もう友達ではなくなってしまう、「友達である」という状態は、上下関係が生じた段階で成立しなくなってしまうという認識が、恐らく悠二だけでなく、やはり高校時代に悠二と共に佐々木とつるんでいた多田(遊屋慎太郎)と木村(森優作)にも共有されている。
しかし、彼らのその友情の結果として佐々木がああいうことになったのではないか? そういう声も聞こえてきそうではある。実際それはそうだと思う。悠二たちはあくまでも佐々木と友達であることを選び、その美しい態度が彼らの予想を超えて、あのような結果につながってしまったということだと思います。つまり友情というものは時に残酷ともいえる結果を生むことがあるのだということを、極めてリアルに描き出しているという点で、本作は僕にとって忘れがたい作品となりました。
ここで冒頭の幡野氏の人生相談の件に戻れば、幡野氏は相談者と幼馴染との友情を壊さないことを念頭に置いていたので、ああいう回答になったのだという見方もできると思う。まあ、友情などというものよりも未成年者の心身の安全の方がはるかに大切だと言われれば「そりゃそうですよね」となってグウの音も出ませんけど。

※7月2日加筆修正