フォードVSフェラーリ (2019)

製作国:アメリ
監督:ジェームズ・マンゴールド
脚本:ジェズ・バターワース/ジョン=ヘンリー・バターワース/ジェイソン・ケラー
音楽:マルコ・ベルトラミ/バック・サンダース
出演:マット・デイモンクリスチャン・ベイルジョン・バーンサルカトリーナ・バルフ/ジョシュ・ルーカス 他
★★★☆☆


「わかる人」と「わからない人」のわかりあえなさについて

観る前は「プロジェクトⅩ」的な、「奇跡の実話」を感動的に謳いあげる映画かと思っていたんですが、全然違いました。本作は、ある非日常的な経験とそこから培った価値観を共有する二人の男――キャロル・シェルビー(マット・デイモン)&ケン・マイルズ(クリスチャン・ベイル)と、ル・マン24時間レースでフェラーリに勝つために、その二人を雇った企業――フォードに属する者たちとの対立の物語だと要約できると思います。
シェルビーとマイルズが共有する経験とは「レース」すなわち日常生活ではありえないような速度で車を走らせる競技に参加することであり、この経験値を豊富に積んできた彼らは、当然のごとく、そこから彼らが得た価値観に基づいて勝利のために最善を尽くそうとする訳ですが、この二人に「勝て」と命じている当のフォードが、事あるごとに邪魔をするという矛盾が生じる。なぜかというと、フォードとしては「ル・マンで勝つ」と「フォードの面子を守る」という二つの目的を同時に達成したいからで、「ル・マンで勝つ」ためには会社の面子などというノンキなことなど言ってはいられない非情なレースの現実を知る二人とはかみ合うはずもない。
結局、この平行線は最後の最後まで続き、フォードの人間たちは「ル・マンで勝つ」ということの意味やその価値をついに理解できず、対立は解消されずに終わります。しかし、それは仕方のないことであって、なぜならばシェルビーとマイルズの経験と価値観は、もともと言語では他人に伝達できない領域に属するものだからです。
だから、ラストシーンでシェルビーが「言葉は役に立たない」という台詞を吐く時、これは、実はこの映画のテーマについて語っているのだと思いました。