バンコクナイツ(2016)

製作国:日本/フランス/タイ/ラオス
監督:富田克也
脚本:相澤虎之助/富田克也
出演:スベンジャ・ポンコン/富田克也/スナン・プーウィセット/川瀬陽太 他
★★★☆☆


アポカリプス・ナウ2017

正直なところ、この映画、観終わった直後は何だかよくわからなかったです。
序盤は、バンコクで故郷の家族を養うために売春をやっている女の子・ラック(スベンジャ・ポンコン)が日本人の男をたぶらかして金をせしめる姿などが描かれるので、この娘が歓楽街で体を武器にのし上がっていくという話になるのかな?と思っていると、昔の彼氏で元自衛隊員のオザワ(富田克也)と偶然再会してから、いろいろあってオザワの仕事のついでに二人でラックの故郷であるノンカーイという町に行くことになり、これはオザワがラックを救うために売春組織からの逃避行を繰り広げるという展開になるのか?と思いきや、オザワは仕事もしないでブラブラした挙句、戻ってきたと思ったらラックとは別れてしまい、彼女は故郷に帰ってしまって、この映画は終わるので、うーんと唸ったわけです。
しかし、何か本作と似た感触の映画を観たような気がするなあとよくよく考えてみたら、あ、それは『地獄の黙示録』だなと。
地獄の黙示録』は、マーロン・ブランド暗殺という任務を果たすために戦場を流れる河を遡行する羽目になったマーティン・シーンの眼から見たベトナム戦争という地獄巡りの物語ですが、本作は、一見「楽園」に見えるけれども、実は人が人を売り買いする「地獄」であるところのバンコク含むタイをオザワとラックが旅する物語だという点で共通しているなと思う訳です。
ただ大きく違うのは、戦場からは逃亡することはできるけれども、資本主義という見えない帝国に占領されて「地獄」と化してしまった現代の世界からは、もう逃げることはできないということを本作は描いているという点ですね。本作を制作した「空族」(富田克也・相澤虎之助を中心とした映像制作集団)は、これまでの作品でも一貫して同じ問題をテーマにしていると僕は思っていて、『国道20号線』のパチンコ屋とサラ金のATMだらけのロードサイドも、『サウダーヂ』の山梨県甲府市シャッター通りも、本作のタイ・バンコク同様「地獄」ですよ、と彼らは言っている。
そんな世界の中で、いったいどう生きるべきなのか? ラストのオザワの選択に、現在の「空族」なりの答えがあるのかな、と思いました。