薄氷の殺人(2014)

製作国:中国/香港
監督:ディアオ・イーナン
脚本:ディアオ・イーナン
音楽:ウェン・ジー
出演:リャオ・ファン/グイ・ルンメイ/ワン・シュエビン 他
初公開年月:2015/01/10
★★★☆☆


現代中国的不条理推理劇

あらすじだけ見れば、2時間ドラマで何度となくお目にかかったような感じなのだが、あまりにも独特すぎる語り口なので、終わってみればこんな映画観たこと無いわーっという印象が残る。あえて何が起こったかを伏せて観客の想像に任せるような編集の仕方や、説明台詞を極力廃したシナリオに戸惑う人も少なくないだろう。しかし、伏線は律儀に張ってあって、ミステリーとしてはフェアなのだった。
細部を見ていくと、まず北野武の『HANABI』を思わせる、美容室での銃撃シーンや、ポン・ジュノ的なユーモア(“『侠女十三妹』3D”を観るシーンや、ラストの現場検証で、殺人があった部屋に入居したことを知る夫婦のなんともいえない表情など)が興味深い。また、非現実的な場面がところどころに挿入されるのもこの作品に奇妙な味わいを加えている。例えば刑事が聞き込みに行った団地(?)の廊下になぜか馬がいたり、野外スケート場からウー(グイ・ルンメイ)がどんどん外に滑っていってしまったり、あるいは何者かに尾行されたジャン(リャオ・ファン)が逆に尾行し返すために利用するダンスフロアでのシークエンスなど、まるで不条理な夢のようで魅力的である。ジャンとウーの夫の顔が似ているのも観客を幻惑するための仕掛けだろう。
そして、とにかくグイ・ルンメイが抜群にいい。こんな女のためなら人生狂っても仕方なし、と思わせるだけの魅力を湛えている。狂うことのできなかったジャンは、ラストでひとり狂ったように踊るしかない。妻のために人生を狂わせた夫とジャンのどちらが幸せなのだろうかと考えさせるところに、ただの推理ドラマではない本作最大の「妙味」がある。