クロニクル(2012)

製作国:アメリ
監督:ジョシュ・トランク
脚本:マックス・ランディス
音楽監修:アンドレア・フォン・フォースター
出演:デイン・デハーン/アレックス・ラッセル/マイケル・B・ジョーダン 他
初公開年月:2013/09/27
★★★★☆


「さらば、ノラえもん! ボンクラエスパー、狂気の大暴走!?」

子孫のしょっぱい未来を変えるために、先祖であるのぎ太の根性を叩き直しにやってきたネコ型ロボット・ノラえもんでしたが、いろんなふしぎ道具を使ってサポートしてやったのに、さっぱり成果は上がらず、のぎ太はダメな小・中学生時代を経て、いまや引きこもりがちなダメ高校生になってしまいました。
今日も学校をサボって「艦これ」とかいうゲームにうつつを抜かしているのぎ太を見て、いっそこいつの家系をここで終了させてやろうかとターミネーター的なことを半ば真剣に考えたノラえもんですが、そんな彼の心中も知らずに、のぎ太はこんなことを言ってきました。
「なー、ノラえもん、一生働かないで、ネトゲだけやって食っていける道具出せよ
「そんなもんねーよ! つか、お前ももう高校生なんだから、いい加減に自分の人生、自分でなんとかすることを考えろよ!」
「……それができたら、こんなザマになってねーよ……」リスカの跡だらけの手首を見せつけるようにしながら、のぎ太は言いました。「そもそも、お前がいろんな道具でいちいち助けるから、俺が自分で何にもできなくなっちまったんじゃねーか? 俺がこうなったのには、お前にだって責任があるんだぜ……?」
(こいつ……マジで殺すか?)、ノラえもんの電子頭脳が殺意で赤く染まりました。しかし、その瞬間、ひとつのアイデアが生まれました。(危険な賭けだが……最後にこいつの器量を試してみるか……)。
ノラえもんは、四次元ポケットから、錠剤が入った薬の瓶を取り出しながら言いました。
「……ここに、ワケありで未来の市場に出回らなかった薬がある。『エスパー錠』っていうんだ」
「『エスパー錠』?」
「ああ……、名前の通り、飲めば超能力を使えるようになる薬さ……。もっとも念動力しか使えないけどな。だから『偽装表示』だって騒がれて、おクラ入りになったんだ」
「なんで、この話の流れでエスパーになれる薬が出てくるんだよ?」と、のぎ太は訝しげに尋ねました。
「お前、自分の力で生きていけなくなったのは俺のせいだって、さっき言ったよな? だから、お前に文字通りの『力』をやるって言ってるんだよ……。この薬を飲めば、とにかく念動力だけは確実に身につく。お前みたいなボンクラの童貞でも超能力がひとつでも使えるようになれば、あとはお前次第で楽勝な人生を送れるようになるはずだ。違うか?」
「念動力か……。確かに使い方によっちゃ、いろいろと楽しいことができそうだな……」のぎ太の、眼鏡の奥の濁りきった目が光りました。
「こいつをやるから、好きに使うがいい……。俺は一切口出ししない。その代わり、何が起こっても、これから先はお前の責任だからな」
「……わかった。さっきは言いすぎて悪かったな……。へへっ、念動力か……。こいつは面白くなってきたぜ……」そう言うと、のぎ太は「エスパー錠」をひと粒、飲み下しました。
「じゃあ、俺はしばらく旅に出る。当分帰らないから、そのつもりで……」そう言い捨てると、ノラえもんはタケコプターを頭に付けて、窓から飛んでいってしまいました。


それから半年ばかり経ったある日、ノラえもんがのぎ太の家に戻ってみると、家には誰もおらず、すっかり荒れ果てていました。
ノラえもんは旅に出る前に、密かにのぎ太を追尾し、監視するようにプログラミングした超小型カメラロボットが、のぎ太の部屋の隅に転がっているのを発見しました。ノラえもんは、カメラロボットが録画した映像を再生してみました。すると以下のような断片的な映像が記録されていました。
のぎ太が念動力の訓練をしている場面。/幼馴染のジャイパンとスピ夫に見つかって、「エスパー錠」を飲まれてしまうまでの経緯。/3人で念動力を使って、しず香ちゃんのスカートをめくったり、手来杉くんのノーパソをぶっ壊したり、様々ないたずらをする様子。/3人の念動力がどんどん強力になっていく過程。/とうとう空まで飛べるようになった3人の飛行場面。/昔のように仲良くなっていく3人の微笑ましい、いくつかの場面。/念動力でDQNを半殺しにしたのぎ太を責めるジャイパンとスピ夫。/使えば使うほど強力になることに気づき、偏執的に念動力の訓練をし続けるのぎ太。/学校に行かなくなったのぎ太を叱ったパパとママを念動力で痛めつけ、家から放り出すのぎ太。/ヤンキーに煽られて逆上したのぎ太が文化祭を念動力でめちゃくちゃにし、学校に放火して死傷者が多数出るまでの一部始終/とあるビルの屋上まで逃げたのぎ太を追ってきたスピ夫が落雷に打たれて死ぬ瞬間。/怒ったジャイパンとのぎ太の一騎打ちの模様……


ふと、ノラえもんが気配を感じて振り返ると、血まみれになったのぎ太が真っ青な顔をして立っていました。
「なあ……、何とかしてくれよ、ノラえもん……。俺、こんなことになるとは思わなかったんだ……。文化祭だって、俺をいつも馬鹿にしていた連中をちょっとこらしめただけなんだよ……。だいたいお前が、こんなもんを俺にくれるから……」
そこまで言いかけたのぎ太の顔面にノラえもんの渾身の右ストレートが突き刺さりました。のぎ太は鼻から大量の血を噴出させながら、部屋の壁にぶち当たり、そのまま倒れて動かなくなりました。
「……クズが……、『力』は自分で使いこなすもの……。お前が『力』に振り回されたのは誰のせいでもない。お前がその器ではなかったということだ……。お前には愛想が尽き果てた。野火家など滅んでしまえばいい……。お前のようなゴミは殺すにも値しない。何とか自分で自分の始末をつけるんだな……」
そう言うと、ノラえもんはタイムマシンで未来に帰ってしまいました。
その後、のぎ太を見た者はいないということです。

※加筆修正しました(11月11日)。