ウルトラミラクルラブストーリー

この映画自体がウルトラミラク

監督:横浜聡子
脚本:横浜聡子
音楽:大友良英
出演:松山ケンイチ麻生久美子原田芳雄 他
ストーリー:舞台は青森。一人暮らしをしている青年・陽人(松山ケンイチ)は、ある日、野菜を売りに行った幼稚園で、東京から来た新任保育士の町子(麻生久美子)と出会う。一目で恋に落ちた彼は、猛烈なアタックを開始する。やがて、その行動はとんでもない方向に発展し……。


これは不思議な映画である。僕が今まで観た映画のどれにも似ていない。
まず驚くのは、町子以外の登場人物の方言(津軽弁)が凄すぎて、セリフの意味がほとんどわからないことである。しかし、別に映画の進行上、それで支障はないのが、もっと凄い。おそらく監督はセリフなど別にどうでもいいくらいに考えているのだ。
ストーリー展開もとんでもない。常に躁病的な陽人は、偶然の出来事から、農薬を浴びると躁状態が落ち着くことを知る。彼は町子に気に入られるために、定期的に農薬を浴びるようになるが、もちろんそんなことをして身体に悪影響がないわけもなく、ある日、彼はあっさり死んでしまう。ところが翌日には何事もなかったように生き返り、いつも通りの日常を過ごし始めるのである。なんだコレ。
なぜ農薬を浴びると陽人は落ち着くのか。なぜ彼は一度死んで生き返るのか。その理由は一切説明されない。しかし、あまりにもあっさりと、自然に描かれているので、全くひっかかりを覚えないのである。映画の中で起きる出来事の理由、そんなものもどうでもいいと、監督は考えているのだとしか思えない。
改めて考えてみれば、僕たちは映画を観ると、このセリフの意味はなんだろう、この人物の行動の理由はなんだろう、といったことを当然のごとく知りたくなる。というか、それらを観客に説明することが映画の役割だろうと決めているところがある。しかし本作には、そういう「常識」は通用しない。登場人物たちは観客が理解できようとできまいと、お構いなしにセリフを吐きまくり、およそ常識の範囲外の出来事が、何の前触れもなく「しかし、それは起こった」という感じで、次々にぶっきらぼうに投げ出される。そして僕らは「起こっちまったものは、しょうがないか」といった感じで、するするとラスト(これがまた前代未聞のシーン)まで呑み込まされてしまうのだ。あとに残るのは、確かに「ラブストーリー」だったという手応えのみ。
……と、いくら説明しても、きっと全く伝わらないのがもどかしい作品。とにかく一度観てほしい。