世界で一番美しい夜

Make Love,No War.

時は現代。日本一出生率が高い村として総理大臣から表彰を受けることになった要村に住む14歳の少女ミドリ(市川春樹)は、この村が出生率日本一になったそもそもの由来を調べ尽くし、語り始める。……全ては14年前のある日、この村に新聞記者の水野一八(田口トモロヲ)が左遷されてきたことから始まった。水野は、村のスナック「天女」のママ・輝子(月船さらら)の保険金殺人疑惑を探る。一方、輝子に密かに想いを寄せる元過激派の男・仁瓶(石橋凌)は、セックスこそが現代人を救うと信じ、かつて縄文人が使用していたという究極の精力剤「縄文パワー」を開発するべく研究に没頭していた。実はこの「縄文パワー」こそが要村が出生率日本一になる原因となるのだが……。


本作のメッセージをかいつまんで言えば「世界中の人がセックスに夢中になれば、世界は平和になる!」というものである。
まるで童貞の大学生が居酒屋で、泥酔した頭からひねり出したような戯言だ、とあなたは言うかもしれない。
しかし僕は、奇想天外にも程があるストーリー展開を見せる(観ればわかるがジャンル分け不能としか言いようがない)この作品に、いつしかのめりこんで(特に月船さららの全裸シーンでは必要以上に前のめりになって)観入るうちに「いや意外にそれ、アリじゃね?」と思ったのである。
あまりに単純すぎて誰も気がつかない「真理」ってあるんじゃないかと。
だって、正味な話、戦争ってイヤじゃないですか? 死んだりするし。それより女の子とHしてる方が全然マシだっつーの。そう思わない人なんかいないんじゃないの?
さて、以下思いっきりネタバレするが、総理大臣から表彰されるために上京する要村の一行に同行したミドリは、東京到着後、数人の子供達を都内の各所に配置して、一斉に「縄文パワー」の粉末を撒き散らす。
そして吸引するだけで、強力無比な発情効果をもたらす「縄文パワー」のために、その夜、東京中の人間が相手かまわずセックスに没頭してしまうのだ。まさに、この作品の宣伝コピーどおりに「誰も死なないテロ」が実行され、「世界で一番美しい夜」が東京に舞い降りるワケである。
しかも、この「縄文パワー」は生殖機能を増強させる代わりに、文明の進歩をストップさせるという副作用があるのである。なんというアナーキーな設定! 思想でも政治でもなく、セックスこそが世界を救う!
ここに至って僕は正直感動した。こんなに、ちょっとどうかと思う程にはっきりと、自分の言いたいことを堂々と映画にしていることに。
いろいろと盛り込みすぎて、ちょっと散漫なところはあるけれど、これほど率直な作品は初めて観た、と思った。
田口トモロヲはじめ、俳優陣も皆素晴らしかった。特にいきなり己のイチモツに急須をぶら下げながら登場する石橋凌が男前すぎる(イチモツで板を割るという荒行も披露)。
今年の邦画ベスト暫定1位。