ドラッグ・ウォー 毒戦(2012)

製作国:香港/中国
監督:ジョニー・トー
脚本:ワイ・カーファイ/ヤウ・ナイホイ/チャン・ワイバン/ユー・シー
音楽:ザヴィエル・ジャモー
出演:スン・ホンレイ/ルイス・クー/ホァン・イー 他
初公開年月:2014/01/11
★★★★☆


つながらない男たち

最近笑ったのは、静岡県警の数人の警官が、「LINEのグループへの誘いを断られた」のをきっかけにして20代の新人巡査にパワハラを繰り返していたというニュースだ。その辺にいるバカなガキのレベルじゃないかと呆れると共に、いい年したおまわりさん達もそんなにつながっていたいのか…と哀れむ気持ちも湧いてきた。
LINEを使っていないので、詳しくは知らないが、ニュースなどで触れられているのを見る限り、いじめのツールとして使われていたり、「既読スルー」が元で事件にまで発展していたりと、なんか面倒くさそうだなあという印象である。それでも多くの人が使っているのは「仲間とつながっている」という感触が得られるからなんだろう。いや、でも、それはホントに「つながっている」と言えるのか? そんなものは幻想じゃないのか。
少なくとも本作に登場する男たちは誰もLINEなんか使ってない。そんな感じがする。
物語は、自らが仕切る覚醒剤密造工場の事故によって瀕死の状態で病院に担ぎ込まれた男・テンミン(ルイス・クー)が、中国公安警察のジャン警部(スン・ホンレイ)に逮捕されるところから始まる。中国では覚醒剤密造は死刑相当の重罪だ。何とか死刑を回避したいテンミンは、減刑を条件に麻薬密輸を取り仕切る大物の逮捕に協力することを申し入れる。ジャン警部はこの取引に応じ、捜査官と犯罪者がコンビを組んで捜査が開始されることになる。
こういう設定の映画は過去にも多々あったが、本作がそれらと一線を画しているのは、「この設定だったらコレをやるでしょ!」という一種の“定番ネタ”を一切やらない点にある。例えば、ジャン警部とテンミンの間には常に消えない不信感はあっても友情は生まれない(コカイン中毒に陥ったジャン警部の命をテンミンがアドバイスして救うというシークエンスがあるにもかかわらず、だ)。また、ジャン警部率いる捜査チームにはベイ刑事(ホァン・イー)という美女がいるのだが、彼女とテンミンとの間にも恋愛感情などは生じない。さらに、テンミンが何故それほど生き延びることに執着するのか、そしてジャン警部の異常なまでの麻薬犯罪摘発への執念はどこから来るのか、さしずめハリウッド映画なら各々の過去にその原因となる出来事があって、それを描くのに時間を費やすところだろうが、そんなシーンは1秒もない。
特に異色なのはテンミンという男の描写である。冒頭の密造工場の事故で死んだ妻を思って涙し、部下である聾唖の兄弟たちと共に彼女を弔うためのささやかな儀式をするシークエンスでは、実はこいつは悪い奴じゃないんじゃないかと思わせるが、真に重要な情報をジャン警部に明かさずにいるしたたかさもあり、観客に本性を全く掴ませない。
そして物語は唐突にクライマックスに突入する。そこで僕らが観るのは、友情・愛情・人情といった人間的な「つながり」を捨て、生き残るためにひたすら殺し合うしかない人間たちが展開する修羅場だ。
ここにはLINEで形成される甘い「仲間幻想」など入り込む余地は全くない。男たちは、ついに何らのつながりも持たないままに死んでゆく。でも、これが中国に限らず世界の実相なんじゃないかね? ジョニー・トーがそう言っている気がした。