ザ・レイド(2011)

製作国:インドネシア
監督:ギャレス・エヴァンス
脚本:ギャレス・エヴァンス
音楽:マイク・シノダ
出演:イコ・ウワイス/ヤヤン・ルヒアン/レイ・サヘタピー 他
初公開年月:2012/10/27
★★★★☆


観客の痛覚を刺激する独創的アクション映画

昨年、こちらでも語ったように、観たくて観たくて辛抱たまらんかった本作。
期待にたがわず、近年稀に見る独創的なアクション映画でした。
プロット自体は、ダイ・ハード』と『ザ・ホード ―死霊の大群―』を掛け合わせて、インドネシア風味にしてみました!という感じであり、オリジナリティこそ感じられないものの、一つひとつのアクション演出が、「シラット」という欧米の軍隊も採用するほどの殺傷力の高い武術をフィーチャーするだけにとどまらず、さらに「如何に観客に痛みを感じさせるか」を目的としたアイデアに満ちているのが素晴らしい。
例えば、敵方が殴られたり、蹴倒されたりするシーンをよく見ると、かなりの頻度で机の角などに腰とか腹とか、あんまり固い所に当てない方がいいんじゃないカナ〜?と思われる部位を率先して当てており、思わず「ちょ、痛ッ」と心の中で呟きがちに。
髪の毛をつかんで壁や床にガンガン頭を打ちつけたり、掴みあった挙句に窓から一緒に飛び出して、外壁の出っ張りに体をぶつけつつ墜落したりという豪快というか無茶としか言いようのないシーンも随所にあり、やはり「痛ぇ…」と心中で呻いてしまう。
しかし、何と言っても本作の最大のアイデアは、ナイフやマチェーテ(山刀)などの刃物を、ほぼ全編に亘って使用したことでしょう。
もちろん、主人公ラマ(イコ・ウワイス)の「シラット」による超絶的格闘シーンでもナイフが非常に致命的な凶器として描写されており、刃物の痛さを存分にアピールするのですが、最も印象的なのは、ラマと重傷を負った同僚が匿われた部屋に追っ手がやってきて家探しするシークエンスです。ラマたちは壁の中の隠し部屋に身を潜めているのですが、その壁に外からマチェーテがブスブスと突き刺される。そして最後に突き刺されたマチェーテの刃はラマの頬にズブッと食い込む。「うわ、痛ッ」と思わず叫びたくなります。
よく考えてみれば当たり前なんですが、銃で撃たれた痛みに共感できる人は少ないだろうけれど、腰を打ったり、刃物で切られたりした痛みは、たぶん大多数の人が共感可能なんですよね。この作品の監督とアクション・コレオグラファー(ヤヤン・ルヒアン)は、恐らくそのことをよく理解しており、なるべく多くの観客が「肉体的な痛み」を感じられるような、まさに「リアル」なアクション映画を作りたかったのではないかと思います。そうだとすれば、その試みは成功したのではないでしょうか。