サウダーヂ(2011)

製作国:日本
監督:富田克也
脚本:相澤虎之助/富田克也
出演:鷹野毅/伊藤仁/田我流/ディーチャイ・パウイーナ/尾崎愛 他
初公開年月:2011/10/22
★★★★★


現実に胸ぐらを掴まれて

僕の実家は、東京近郊のある地方都市にある。
最寄りの駅から、実家までは歩いて10分ほどかかるのだが、たまに帰省するたびにうんざりした気分にさせられる。
途中で通る商店街が、年を追うごとにどんどん寂れて、いわゆる「シャッター通り」と化しつつあるからだ。
僕が子供の頃、よく買い物をした店は皆、つぶれるか、シャッターを閉めたままの状態になってしまった。活気があるのはパチンコ屋くらいだ。
そう、まるでこの映画の舞台である山梨県甲府市のように。


この映画の主要な登場人物は3人。土方の精司(鷹野毅)、精司の働く建設会社でバイトをしている猛(田我流)、そして失業中の日系ブラジル人・デニス(デニス・オリヴェイラ・デ・ハマツ)。
彼らはどん底の不況下にあるシャッター通りばかりの街の中で、苦い現実から目をそらすために、それぞれにあがいている。
精司は妻との関係が冷え込んでいくのと反比例して、タイ人ホステス・ミャオ(ディーチャイ・パウイーナ)にのめり込んでいく。
猛はヒップホップグループ「アーミービレッジ」としての活動に打ち込むことで、精神に異常を来たしている弟や自己破産してパチンコにうつつを抜かしている両親といった家族の問題から、かろうじて自分を遠ざけている。
デニスもまた「スモールパーク」というヒップホップグループに身を置くことで、仕事のない苦しみを忘れようとする。
しかし、現実からの逃避は決して長続きしない。
精司、猛、デニスは三人三様のバッドエンドを迎えることになる。
誰も、逃げきることなどできなかったのだ。


恐らく、この甲府市シャッター通りは、僕の実家のある街のシャッター通りにつながっているのだろう。だとすれば、僕もまた、この現実に対する態度を決めなければならない。
精司たちのように、全力で目を背け続けるのか。
それとも、負けを承知で抗うのか。
胸ぐらはもう掴まれているのだ。