バウスシアターの終焉、あるいは僕は何故ブログに記事を書かなかったか

去る5月31日の夜21時少し前、僕は、大勢の人々と共に吉祥寺バウスシアターで開場を待っていた。第7回爆音映画祭の最後の作品であり、この日閉館するバウスシアターの最終上映作品でもある『ラスト・ワルツ』(1978)を観るためである。
たぶん4〜5回しか、この映画館に足を運んだことがない僕には、ここの閉館を惜しむ資格など全く無いのは重々承知の上で、それでもこの日に来たのには二つの理由がある。
一つには、来た回数こそ少なかったが、ここで観た映画がどれも素晴らしかったからだ。例えば、松尾スズキの事実上の初監督作品『猿で行く』(1992)、かの伝説的ドキュメンタリー『クラム』(1994)、そして、殺人を生業とする人間の論理が作品全体を支配する怪作『殺しのはらわた』(2006)……。どの作品もバウスシアターでなければ観られなかったのではないかと思えるだけに、つい、その閉館の時に立ち会いたいと思ってしまったのである。
二つ目は、これは今となっては本当に恥ずかしいのだが、これまで一度も「爆音上映」を体験したことがなかったから最後に一度だけでも体験してみたい、という「本当に映画ブログの管理人なのか?」と蔑まれても仕方がない動機のためである。僕は、「爆音」というのは、終映後には耳がキーンとして、しばらく何も聞こえないくらいのレベルの「爆音」なのだと何故かずっと誤解していて、これまで敬遠し続けてきたのだった。常識的に考えればそんな訳があるはずもないのだが。

実際、初めて「爆音」で観た『ラスト・ワルツ』は本当に素晴らしかった。音を大きくする(注:もちろん単純に大音量にしているだけではなく非常に緻密かつ繊細な音質の調整が必要だそうである)と、あんなにも臨場感が得られるというのは、これは一つの「発明」ではなかろうか。誇張抜きで、まるで「ザ・バンド」のラスト・コンサート会場に本当にいるようだった。
作品の内容については、僕ごときロック音痴が生意気なことをどうのこうのと書けるようなものでは到底なくて、とにかく素晴らしいものを観せてもらいました、という感嘆の言葉しか出てこない。スコセッシ、若い頃からすげえなと再認識した。
久々に映画館に足を運んで、凄い作品を凄い音響効果で観せてもらって、やっぱり映画は映画館で観るに限るなあと、帰り道にしみじみと思った(正確には、この前に新宿ピカデリーで実写版『パトレイバー』の第1章を観ているのだが、アレは単なる出来の悪いテレビドラマだとしか思えなかったので、「映画」としてカウントしていないのである)。しかし、少なくともバウスシアターで観ることは、もうできないのだ。残念としか言いようがない。

ところで、このブログをたまにでも読んでくれている人は、1月26日付けで『Seventh Code』(2013)のレビューをアップして以降、さっぱり記事を書いていないことにお気づきかと思う。それにはもちろん理由がある。
はっきり言おう。それは映画館に行く金がないからである。
僕は、いま貧乏なのだ。すなわち貧民、または貧困層、あるいはワーキング・プア、はたまた巨根なのである。
まあ、最後のはちょっと見栄を張っただけだが、とにかく日々の生活に追われて、映画を観るのもままならないのだ。
上記のように、映画は映画館で観るのが最高だと思うけれど、そんなことにこだわり続けていたら全然新作が見られなくて、映画ブログのはずの「シネパカ」は、いまや単なるTwitter大喜利ブログになってしまった。まったくもって嘆かわしい限りだ。
収入が足りないなら、バイトでもすれば?とか言う人もいるだろうが、それは論外である。だって働きたくないから。いやホントにこれ以上働きたくないっすよ。今だって週に5日は働いているんである。これ以上は無理。
という訳で収入が増やせないなら支出を減らすしかない。目下、僕は超ハードな節約生活を送っている。本も雑誌も新聞も買わない。酒は、ただのコーラをコークハイだと思い込んで飲むことで我慢している。電気代がもったいないから夜でも電灯を消して真っ暗な部屋で過ごしているし、水道代ももったいないので雨水をペットボトルにためて、飲み水にしたり、体を洗ったりしている。食べ物はもっぱら公園で捕まえた鳩と雑草。トイレットペーパーなんてものは買わず、手で拭いている。服も買えないから部屋では全裸。靴も買えないから会社に行く以外は足に靴の絵を描いて外出しているのである。
ここまで節約しているのに映画の一本も観られないなんて…。いい年したおっさん(僕)が汗水たらして、ときどきパソコンの前で仕事してるふりして居眠りしながらも働いて、その程度の収入しか得られないなんて…。いったい日本の経済はどうなってしまったのだろう。アベノミクスってやつが効いたってウソか? それともアベノミクスは僕を避けているのか。そんなに僕のことが嫌いなのか、アベノミクス
とにかく、だ。これだけは言える。
バウスシアターも、僕も同じやつに負けたのだ。
資本主義ってやつにさ……(よく意味がわかっていない)。