僕らのミライへ逆回転

「映画を作る」という幸福な体験

ある小さな町のおんぼろレンタルビデオ店「ビー・カインド・リワインド」は、都市再開発計画のために取り壊しの危機に瀕していた。そんなある日、店員のマイク(モス・デフ)は、出かけることになったフレッチャー店長(ダニー・クローヴァー)に留守を任されるが、その直後、幼なじみのトラブルメイカー、ジェリー(ジャック・ブラック)のせいで、商品のVHSビデオが全て消えてしまう。そこへタイミング悪く常連のファレヴィチさん(ミア・ファロー)が『ゴーストバスターズ』を借りに来てしまった。追い込まれた二人は、ビデオカメラを手に手作りの『ゴーストバスターズ』をでっちあげるのだが、それが意外な反響を呼び……。


高校時代、僕は映画研究会に所属していた。そして、僕らは高3の文化祭のために一本だけ映画を作った。
脚本はなく、その場で台詞や演技を考えるという「香港映画」形式で撮影は進められた。内容は、まあ刑事ドラマのパロディ(の出来損ない)みたいなものだ。はたから見たら単なる悪ふざけにしか見えなかったかもしれないが、僕らはそれなりに真剣だった。完成した時は、ちょっと感動すらしたものだ。
しかし、その映画は(まあ、いきあたりばったりで作ったんだから当然だが)とてもお客に見せられるレベルのものではなく、文化祭当日も大して客など入らなかったように、ぼんやりと覚えている。
でも、作っている間は楽しかった(他のメンバーも皆すごく楽しそうだったように覚えている)。ろくな記憶がない高校3年間の中で一番いい思い出だとさえ言える。
しかし、改めて考えてみると、なぜ、あんなに楽しかったのだろう。その前年の文化祭では、確かクラスで模擬店をやったのだが、全員で協力して店の内装を作ったり、料理の材料の買い出しをしたりして、それはそれなりに楽しかったように思う。しかし、映画作りは、確実に模擬店よりもずっと面白かった。改めて考えてみると、それはなぜだったのか。
僕らのミライへ逆回転』では、『ゴーストバスターズ』、『ロボコップ』、『2001年宇宙の旅』、『ライオンキング』……と名だたる名作が、はじめはジャック・ブラックモス・デフによって、そして次第に町の住人たちも巻き込んで、次々に「リメイク」されていく。登場人物たちの、その「素」で楽しそうな表情を観れば、僕の疑問の答えは自ずと明らかだ。
「映画を作る」ということが、そもそもすごく面白いことなのだ。僕らは知らずしらずのうちにその真実に触れていたのである。
演劇でもなく、合唱でもなく、オーケストラでもなく、映画を作るプロセスにしかない「何か」が人を虜にする。その「何か」が、この映画では指し示されている気がする。
映画を撮っている人、映画を撮ろうと思っている人はもちろん、ただの映画ファンも含めて、すべての映画を愛する人に贈られた作品。必見(ただし邦題は全くいただけないけれど)。