ストレイ・ドッグ(2018)

製作国:アメリ
監督:カリン・クサマ
脚本:フィル・ヘイ/マット・マンフレディ
音楽:セオドア・シャピロ
出演:ニコール・キッドマン/トビー・ケベル/タチアナ・マズラニー/セバスチャン・スタン 他
★★★☆☆


はぐれ女刑事・暗黒派

ニコール・キッドマンという女優を特別に意識したことはなかった。彼女の出演作品は何本か観たことはあるけれど、作品の良し悪しにかかわらず、彼女のことはさっぱり印象に残っていなかったわけです。

※以下、本作の内容に触れておりますので、鑑賞後にお読みいただくことをお勧めします。

ところが、何となく面白そうだなと思って観に行った本作で驚かされた。冒頭、アル中気味の女刑事・エリンとして登場する彼女の顔にまずギョッとする。荒れ切った肌に、目の下のクマとほうれい線がクッキリと刻み込まれた憔悴しきった顔つき。そして、その言動と性格からロス市警の同僚、元夫、さらには実の娘からさえも嫌われ、疎まれている彼女の現状が描かれるにつれ、これは今まで観てきたニコール・キッドマンとは全然違うなあと思いました。これまでのパブリック・イメージを覆すようなこういう役を演じて、浮いて見えないのがすごいなと。
さて何故、彼女はそんな悲惨な状態になってしまったのか。それには彼女が、かつて潜入捜査官として、サイラス(トビー・ケベル)という男が率いる犯罪グループに潜入した件が関わっています。彼女は、やはり捜査官であるクリス(セバスチャン・スタン)と共にカップルを装ってグループに入り込むんですが、演技のつもりだったのが本当に彼と恋仲になってしまい、さらに実は警官の安月給に満足していなかった彼女は、サイラスたちが銀行強盗で強奪した現金を横取りして二人で逃げようと彼に持ちかける。この「あいつらの金を奪って二人で幸せになろうよ~」とクリスを誘惑する時のニコール・キッドマンもまたすごい。実年齢ほぼ50代で20代のときのエリンを演じているわけですが、全然違和感がない上に端的に言ってエロい。そりゃクリスさんも、ついつい心揺り動かされるわと納得するしかない。この「美しい悪女」としての顔を持つ主人公だからこそ、彼女にこの仕事がオファーされたのかなと思う。
しかし、悪いことはできないものでエリンの計画は挫折してしまい、死人まで出したうえにサイラスを取り逃がすという惨憺たる結果に終わる。それ以来、罪悪感や後悔の念、自分への怒りなどに苛まれながら、酒に逃げつつ生きる屍のように生きてきたであろう彼女。その苦悩の累積が冒頭の彼女の陰惨な顔を形作ったわけです。それにしても、これ一昔前なら、もっぱらゲイリー・オールドマンとかティム・ロスとかのクセの強いおっさん俳優に振られそうな役だと思いますが、ニコール・キッドマンが貫禄十分に演じているのには素直に賞賛の念しかない。
で、こんな感じでノワール色強めの僕好みのストーリーで、しかも時系列を大胆にいじくっていて終盤にアッと言わされるという技まで効いており、かなり面白かったんですが、クライマックスの、再会したサイラスとの対決シーンが…なんかもっとこう…何とかならなかったのかという物足りなさを感じました。そもそも彼は何故今更、エリンを挑発してきたのか。それが判然としないのもモヤモヤする。その辺が実に惜しいんですが、僕と同様にニコール・キッドマン、あんまり印象ないっていう人が観たら、きっと驚くと思うので是非観てみてください。