ブルータル・ジャスティス (2018)

製作国:カナダ/イギリス/アメリ
監督:S・クレイグ・ザラー
脚本:S・クレイグ・ザラー
音楽:ジェフ・ヘリオット/S・クレイグ・ザラー
出演:メル・ギブソンヴィンス・ヴォーンジェニファー・カーペンタードン・ジョンソン 他
★★★★☆


「暴力の伝道師」からのメッセージ

この記事に添付した、本作のポスターのキャッチには「暴力の伝道師S・クレイグ・ザラー」とありますが、彼の映画を2本(本作と『トマホーク ガンマンVS食人族』)観て、彼が書いた小説『ノース・ガンソン・ストリートの虐殺』(ハヤカワ文庫)を途中まで読んだ段階の僕からしたら「いや、まさにこの呼び名はピッタリだなあ」と思う。でも、より正確に言えば「暴力(がもたらす恐怖)の伝道師」では、とも思います。

※以下、本作および『トマホーク ガンマンVS食人族』、『ノース・ガンソン・ストリートの虐殺』の内容に触れておりますので、それぞれ鑑賞・読了後にお読みいただくことをお勧めします。

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尾崎豊の『15の夜』をアップデートしてみた

togetter.com

上記のまとめをたまたま目にして、「え、今はそんな感じなの?」と思った。「俺のカラオケの、数少ない持ち歌のひとつなのに?」と。
まあ、カラオケの持ち歌だろうとなかろうと「だって盗んだバイクで走りだしちゃダメでしょう?」と言われたら確かにぐうの音も出ないわけです。「バイク盗んだら窃盗だから! 窃盗って犯罪だから! 犯罪者の気持ちなんかわかるわけねえだろ! バカか!」とまで言われたとしても、腹は立つけど、その通りですよねと答えるしかないところがある。ところで、その点については別に今になって急に言われだした訳でもなくて、電気グルーヴが1992年に出した『人事をつくさず天命を待つ』という曲の中で既に言っているんですけどね。「バイクを盗んじゃいけません」って。しかし、時代がついに電気グルーヴに追いついた、ということでは絶対にないんだろうなあとは思う。
とにかく、もはや世間では『15の夜』、受け入れがたいという風潮になっているようなので、2020年代にピッタリフィットするように歌詞をアップデートしたらいいんじゃないの? おじさんがやったろうか、ヒマだから、というわけでやってみました。
とりあえず、問題の「盗んだバイクで走り出す」という一節は次のようにしたら良いのではないか。


自分のバイクで走り出す


あっさりと正解が出たという気が一瞬したが、こう修正したとしても根本的な解決にはならないことにすぐ気づいた。なぜならバイクの免許を取得できるのは16歳からなので、たとえ自分のバイクであっても「そもそもバイク乗っちゃダメだろ! いい加減にしろ!」という声が上がるに違いないからである。
じゃあ、バイクに乗らなければいいのでは?ということで次のように修正する。


盗んだチャリで走り出す


「だから盗むなって言ってるだろ! チャリでも盗んだら窃盗だから! 窃盗って犯罪だから! あなたは犯罪を推奨するんですか? 犯罪を推奨する奴も犯罪者! 通報、通報!」って金切り声で叫ぶ人が続出するだろう。確かに「盗んだチャリ」はマズかった。訂正してお詫びします。


自分のチャリで走り出す


もはやごく普通の中高生の日常風景である。これなら誰にも文句はつけられまい、と思いきや、さらに別の問題が浮上してしまうことは避けられない。この曲の歌詞の中で「盗んだバイクで走り出す」のは「暗い夜の帳りの中へ」なのだ。しかも「行き先も解らぬまま」にである。
だから「盗んだバイクで走り出す」を「自分のチャリで走り出す」としたところで「未成年者が夜中にチャリでどこに行くんだ! 行き先もわからないのに夜中に外を出歩くなんて非行の始まり! 非行が行き着く先は犯罪!」という批判が出ることを抑止できないので、思い切って次のようにしてみよう。


自分のチャリで走り出す 学校に遅刻しないように
明るい朝の光の中へ


校則通りの髪型・学生服姿の主人公が、溌剌と自転車をこいで登校していく姿が目に浮かぶ。100点満点の健全な情景である。これなら少なくともこの部分に関しては、誰からも苦情は出ないだろう。
しかし、この歌の他の部分では「覚えたての煙草をふかし」たり、「あの娘と俺は将来さえずっと夢に見てる」とか寝言をほざいていたりと、バイク窃盗に負けず劣らず2020年代的にヤバい部分があり、そちらも大々的に修正する必要がある。あるのだが、もう飽きたのでやりません。誰かに怒られそうだし。

ディック・ロングはなぜ死んだのか?/ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ/泣く子はいねぇが

ディック・ロングはなぜ死んだのか? (2019・アメリカ)
監督:ダニエル・シャイナート
脚本:ビリー・チュー
音楽:アンディ・ハル/ロバート・マクダウェル
出演:マイケル・アボット・Jr/ヴァージニア・ニューコム/アンドレ・ハイランド/サラ・ベイカー 他
★★☆☆☆

ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ(2019・アメリカ)
監督:ジョー・タルボット
脚本:ジョー・タルボット/ロブ・リヒャート
音楽:エミール・モッセリ
出演:ジミー・フェイルズ/ジョナサン・メジャース/ティチーナ・アーノルド/ダニー・グローヴァー 他
★★★☆☆

泣く子はいねぇが(2020・日本)
監督:佐藤快磨
脚本:佐藤快磨
音楽:折坂悠太
出演:仲野太賀/吉岡里帆余貴美子柳葉敏郎 他
★★★★☆


「ボンクラ・グローイング・アップ」3本立て

一見全く関連性はないように見える、この3作品。実は3本とも「ボンクラな主人公が、訳のわからないことをやらかした結果、成長せざるを得なくなる話」なのでは?と思うので、まとめてみました。

※以下、それぞれの作品の内容に触れておりますので、鑑賞後にお読みいただくことをお勧めします。

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れいこいるか (2019)

製作国:日本
監督:いまおかしんじ
脚本:佐藤稔
音楽:下社敦郎
出演:武田暁/河屋秀俊/豊田博臣/美村多栄/時光陸/田辺泰信 他
★★★★☆


自分にかけた「呪い」を解く方法

最近、理由はわからないんですけど、昔のイヤな思い出が不意に脳裏に甦ることが多くなってきて困ってます。「あんなことをしなければ良かった」「あの時、こうするべきだった」などという今更どうすることもできない後悔の念だけがベッタリ貼りついているのが共通点の様々な記憶が、何の脈絡もなく脳内で再生されるたびに思わずうめき声を上げたくなるんですが、いちいち「うぅ~」だの「あぁ~」だの発声するのもみっともないので代わりに舌打ちをするのがクセになってしまい、それはそれでよろしくないなあと思う。
こういうのは、いったいどうすればいいんですかね? 意識して忘れようとしても、そうすればするほど却って鮮明に思い出したりしてしまい、これはいわば自分で自分にかけた「呪い」みたいなものだなと少々大げさですが思っています。

※以下、物語の内容に触れておりますので、鑑賞後にお読みいただくことをお勧めします。

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パブリック 図書館の奇跡 (2018)

製作国:アメリ
監督:エミリオ・エステべス
脚本:エミリオ・エステべス
音楽:タイラー・ベイツジョアン・ヒギンボトム
出演:エミリオ・エステべス/アレック・ボールドウィンジェナ・マローンクリスチャン・スレイター 他
★★★☆☆


図書館のビリー・ザ・キッド

エミリオ・エステべスというと、僕にとっては“『ヤングガン』の人”です。『ヤングガン』2部作での彼が演じるビリー・ザ・キッドは、ゲラゲラ笑いながら人を射殺する超危険人物で、確か公開当時は「パンクなビリー・ザ・キッド」と形容されていたように記憶しています。たぶん今だったら「サイコパス的」とでも言われるんだろうと思いますが、僕は妙にこのキャラクターが好きなんですよ。確かに異常者ではあるんですが、気に入らない奴なら保安官だろうが政治家だろうが絶対に従わない、その激烈な反抗心にすごく惹かれるわけです。
で、本作でエミリオ・エステべスは、ビリー・ザ・キッドとは真逆の真面目な図書館員の役なんですけど、にもかかわらずビリー的な匂いがあるなと僕は思った。なぜかというと、ホームレスたちの図書館占拠が始まった当初は腰が引けていた彼が積極的に加担していくきっかけが、交渉するためにやってきた刑事(アレック・ボールドウィン)や検察官(クリスチャン・スレイター)への単純な反感だからです。「言ってることは正論だが、お前は気に入らないから従わない」という態度になってしまうところに、すごく「ビリー風味」を感じる。
彼が最初から確信犯的にホームレス側に立つ人物ではなく、初めはニュートラルな立場だったのが、警察にムカついたことをきっかけに段階的に深入りしていくというプロセスを辿ることが本作の重要なところだと僕には思えて、なぜかといえば、そうすることで観客は劇中の問題の是非を彼と共に徐々に考えることになるからです。
極寒の夜に、凍死するかもしれないホームレスを図書館から放り出すべきか否か? これは、昨年の台風19号の最中に持ち上がった、避難してきたホームレスを避難所から追い出すべきか否かという問題と同様であって全く他人事ではない訳ですが、本作が提示する答えはシンプルです。法律はどうあれ、弱い人間を救うべきだと真正面から言い切っている。むしろ何故、救ってはいけないのか? 何故、弱者は黙っていることを暗に求められるのか? 歯を食いしばって守らなければならない「きれいごと」というものが社会には存在していて、それが「公共の福祉」なのではないのか?と訴えている。
などと書くと、ものすごく堅苦しい映画のように思えるかもしれませんが、むしろ全編ライトなコメディタッチだし、全裸中年男性がノリノリで熱唱するシーンがオチの伏線になっているという映画史上初なのではないかと思わせる作品でもあるので、社会派が苦手な人にもお勧めです。

悪人伝 (2019)

製作国:韓国
監督:イ・ウォンテ
脚本:イ・ウォンテ
音楽:チョ・ヨンウク
出演:マ・ドンソク/キム・ムヨル/キム・ソンギュ/キム・ユンソン 他
★★★★☆


良い奴、悪い奴、イカれてる奴

例えば主人公とライバル、刑事と犯罪者、ヒーローとヴィランなどの普段は対立関係にある二者が、ある目的のために一時的に共闘するというストーリーに、僕はどうにも抗い難い魅力を感じるタチなんですが、皆さんはどうでしょうか。例としてパッと思いつくのは『48時間』(1982/ウォルター・ヒル)。刑事(ニック・ノルティ)と囚人(エディ・マーフィー)が凶悪犯を逮捕するために48時間だけのコンビを組む話ですが、大好物としか言いようがない。
で、本作は超コワモテのヤクザの組長が連続無差別殺人犯に襲われたのをきっかけとして、犯人を追う狂犬じみた暴力刑事とタッグを組むことになる話なんで、上記の通り、完全に僕のストライクゾーンど真ん中であり、あらすじを知った段階で絶対に面白いと思ったし、観に行ったらやっぱり面白かった。
本作の面白さの最大の要素として挙げられるのは、これは『48時間』にもあてはまると思うんですけど、組長・刑事・殺人犯の三者のキャラクターがめちゃくちゃ立っていること。
まず組長のマ・ドンソク。この人は劇中でどんなにえげつない暴力を振るっても好感が持てるし、刺されても車にはねられても死なない不自然さも「まあ、こいつならアリか」という風に呑み込まされてしまうという、マンガの中の人が間違って現実世界に出てきちゃったみたいな稀有なキャラクターで「第二のシュワルツェネッガー」と呼んでもいいのでは?とさえ思いました。対してキム・ムヨルが演じる刑事は、相手がヤクザなら全くためらいなくカジュアルに暴行するスタイルの問題ありすぎな狂犬デカでありながら、どうにも憎めない田舎の兄ちゃん風のルックスと言動、そしてそれとは裏腹に意外にクレバーな面も併せ持っているのが魅力的です。
そして、この二人が追うことになる無差別殺人犯(キム・ソンギュ)も、残忍冷酷おまけに頭も切れるという手ごわさもさることながら、クルマに乗ったおっさんしか狙わないというなかなかにニッチな設定でグッときます。犯行の動機は一切明らかにならないんですが、完全にヤクザでしかない見た目のマ・ドンソクでさえ襲うんだから、この人、本当に「無差別」なんだなあ、本格派だなあという妙な感慨を覚えました。「誰でも良かった」と言いながら、実際には自分よりも弱そうな人間ばかり狙うような奴よりもはるかに好印象。て言うか誰でもいいにも程があるだろ。
もちろんキャラクターの魅力だけでなく、組長と刑事が手を組むものの、刑事の目的は犯人逮捕、組長の目的は犯人を拉致って拷問して殺害という真逆なもののため、互いに利用しつつ出し抜き合いもするというスリリングなストーリー展開が終盤まで続き、先が読めないのが素晴らしい。また、二人が安易に友情で結ばれたりせず、互いに相手の弱みを握り合ったり、捜査の過程で組長はもちろん刑事もしっかり手を汚したりするのを描くことで、アクションとしてだけでなく、きっちりノワールとして成立しているのも良いなと思いました。
そして、「なるほど!」とポンと膝を打つ納得のラストがビシッと決まって終映後、僕はもうニッコニコで席を立ちましたよ。マ・ドンソクファンはもちろん、この手の話に目がない僕のようなタイプになら絶対にお勧めの一作です。

横須賀綺譚 (2019)

製作国:日本
監督:大塚信一
脚本:大塚信一
出演:小林竜樹しじみ川瀬陽太/長内美那子 他
★★★★☆


フィクションVS東日本大震災

東日本大震災が発生した2011年3月11日14時46分、僕がどこで何をしていたかというと、駅前のドトールでボケっとしていました。当時失業中で金がなかったので、しょっちゅうコーヒー一杯で暇つぶししていたんですよ。
店が揺れ始めた時は「ああ、地震か」という感じで特に気にもしなかったんですが、だんだん揺れ方が、それまで経験した記憶がないくらい大きくなってきたので「これはいつもとは違うな」と思いました。周りの客も動揺し始めて、中には外に逃げ出していく人までいましたが、僕は収まるまで店内に留まり、それから帰宅してテレビをつけてみて、初めて事態を把握したという次第です。
当時はそれなりにショックを受けて、関連する報道を注視していたように思うんですが、あれほどに重大な出来事についての記憶も自分の中ではだんだんに薄れていった。まあ自分のことながら本当に薄情なもんだと思いますが、本作を観るまでは忘れていたと言ってもいい。

※以下、「オチ」の部分に触れておりますので、鑑賞後にお読みいただくことをお勧めします。

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